生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2010年度 事後評価結果

高効率物質生産系宿主としてのカイコのポストゲノム育種

(九州大学大学院農学研究院 日下部 宜宏)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

本研究は、大量飼育が容易な大型昆虫であるカイコとバキュロウイルス系とを利用し、他の発現系では生産が困難な特異な生理活性を有するタンパク質を大量発現する方法の改良研究で、この技術の確立によって関連産業が受けるメリットは大きい。
九大に保存された数百のカイコ系統の中から、高タンパク質生産能を示すカイコ系統をスクリーニングし、d17系統を選抜した。この系統を用いて実際にネコHGFの大量生産に成功すると共に、高タンパク質生産能の遺伝様式の解析と鍵となる遺伝子の解析まで研究を掘り下げた点は高く評価できる。ただ鍵遺伝子の同定やその機能の解明にまで至っていない。また、シャペロンタンパク質の共発現により、不溶タンパク質を可溶化して発現させることを可能にし、実際に魚やヒトのホルモン、成長・分化誘導因子等の難発現性のタンパク質の大量生産に成功したことは評価に値する。これらの研究成果は、今後、バキュロウイルス-カイコ(他の昆虫や培養細胞を含む)を用いたタンパク質生産に関連する産業発展への貢献が期待できる。しかしながら、本発現系で最も期待された糖鎖付加技術が未確立である等、様々な可能性を考えて着手された研究課題の多くが技術として未完成のままであるのは残念である。今後も研究を発展させ生物系特定産業に貢献できる技術の完成を期待する。