生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2010年度 事後評価結果

植物の「みずみずしさ」の分子機構解明とその応用のための基盤研究

(岡山大学資源植物科学研究所 且原 真木)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

(1)全体評価

本課題は、植物の水利用機構を分子レベルで解明するための基盤研究を推進し、植物の生長、ストレス応答・耐性、水透過性制御におけるアクアポリン機能の全体像を解明し、その応用への基盤を構築することを目的として展開された。
アクアポリンの分子種ごとの機能の特性を明らかにするとともに、新規アクアポリンの発見、輸送基質に関する知見など、新たな知見を得るとともに、アクアポリン分子のプロファイリングと機能解析が進み、植物の「みずみずしさ」のメカニズム解明と応用展開に向けた基盤研究が、概ね順調に進んだ。
耐冷性の付与などはアクアポリン機能を広げる成果である。また、アクアポリンの細胞内偏在の解明は、水透過性の高いアクアポリンについて初めての発見である。今後のアクアポリン研究における重要な発見がなされたと評価できる。

(2)中課題別評価

中課題A「イネ科植物のアクアポリンの多彩な役割と制御機構解明およびその応用」
(岡山大学資源植物科学研究所 且原 真木)

オオムギのアクアポリンの網羅的発現解析と一部遺伝子についての機能解析が重要な成果である。オオムギのアクアポリンについて、種類、組織、成長段階における発現の特異性、輸送基質の同定を含む種別機能特性など、その全容を明らかにし、プロファイリングするとともに、イネとの系統的近似性を示した。全オオムギのアクアポリン遺伝子の同定、PIP遺伝子発現プロファイル、塩ストレス応答の定量解析、4量体による活性制御、アクアポリン欠失イネ系統選抜などの研究は順調に進んだ。オオムギPIP1型とPIP2型の相互作用が水輸送活性を高めること、この相互作用には両PIPのN末側配列が重要であることや、鍵となるアミノ酸を特定したこと、未知タンパク質リン酸化と細胞内輸送による制御が機能している可能性など、学術的に高い成果をあげた。これらの成果に基づいて、イネ科植物における、アクアポリンを鍵とする水管理システムに着目した品種開発に向けた基盤構築に迫ったことは、評価できる。
インパクトファイターの高い雑誌への発表、国際会議のオーガナイズなどでリーダーシップを発揮するなど情報発信も多く、本課題全体の牽引的役割を果たした。

中課題B「アクアポリン分子種の分子機能解明と園芸作物への応用展開」
(名古屋大学大学院生命農学研究科 前島 正義)

トマトとアサガオを中心に基礎的研究と応用展開にむけた研究を展開し、トマトとアサガオにおけるアクアポリンの分類と成長、組織別の発現プロファイルを示した。また新規アクアポリンXIPを発見した。PIP2のチャネルの開閉にはリン酸化が鍵となっていること、AtPIP2;3が、植物特有の新規な高温応答に関わること、さらに、シロイヌナズナを材料にした研究においても、これまで機能が全く知られていないSIPについて、変異株の表現型を明らかにし、SIPがエチレン受容とシグナル伝達に関わることなど、分子機能の解明において、レベルの高い成果をあげた。情報発信もされている。

中課題C「植物及び微生物アクアポリンのゲーティング機構の解明と応用」
(秋田県立大学大学院生物資源科学研究科 北川 良親)

アクアポリンのゲーティング機構を解明することが大きな目的であったが、この面においては、構造解析がうまく進まなかった。
一方、イネの耐冷性に関与するアクアポリンとして、OsPIP1;3を候補として絞り込み、その過剰発現イネが耐冷性を獲得していることを実証し、特許化したことは成果である。また、OsPIP1の発現量調節が籾収量など成長に関わり、育種に重要であること、OsPIP1;3が葯の成熟に関わることなど、興味深い知見も得られている。
しかしながら、論文の発表数は少なく、外部発信としては十分とは言いがたいし、特許申請も1件である。本支援に応えるべき研究成果が見えなかったことが残念である。

中課題D「植物の吸水と保水のメカニズム」
((独)農研機構・東北農業研究センター 村井 麻理)

PIPとTIPについての発現変化と水透過性、組織内局在性を明らかにすること、アクアポリンのリン酸化と水分生理との関係を明らかにすることを目標として進められた。対象をイネに絞り、吸水、保水に関わるアクアポリンの研究を展開し、水吸収の方向性とアクアポリン分子種との関係を明らかにするとともに、OsPIP2群とOsTIP2;5が高い水透過性を持つことを示すとともに、特に根に特異的なアクアポリンは、光照射、蒸散など外界の水分条件に応答して水透過性を調節する役割を担うことを示すなどの成果をあげた。