生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2010年度 事後評価結果

水産無脊椎動物の生殖腺刺激ホルモンの解明と応用

(九州大学大学院農学研究院 吉国 通庸)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

(1)全体評価

イトマキヒトデの生殖腺刺激ホルモンがインスリン族リラキシン亜族に属するペプチドであったことから、当初の目標設定では、このリラキシン様ペプチドの構造を手がかりにして、棘皮動物のアカウニとマナマコ、軟体動物のマガキ、節足動物のクルマエビから同様のペプチドを探索すれば、それが生殖腺刺激ホルモンであろうとの研究戦略を立てたが、実際に解析を進めた結果、そのような構造を持ち、生殖腺刺激活性をもつペプチドの発見には至らず、当初目標のかなりの部分を達成することが困難となった。
中間評価時点では、予想しなかった新しい発見(クビフリンの発見)があったが、その他の部分の研究は遅れ気味であった。また、組換え体の合成などは当初思っていたほど容易ではなく、合成品に活性が認められなかった。このため、中間評価後、当初の研究戦略を見直したことにより、いくつかの動物種において、卵成熟や放卵放精誘起活性を持つペプチドが見出されたが、時間的な不足もあり、同定に至らなかった活性物質が多く、マナマコを除いて実用化まで行かなかった。しかしながら、マナマコのクビフリンの同定と、化学合成、実際の種苗現場での実用化については、充分な進展がなされている。
マナマコについて、クビフリンの発見に続く一連の研究によって、マナマコ産卵誘発法を構築したこと、さらには天然型の100倍以上の活性を持つ誘導体を発見したことは本研究全体の大きな成果であり、生物系特定産業への貢献度が極めて高い。
マガキについては、EST解析を行うことによってGnRHと産卵誘発ペプチドを発見することができ、同ペプチドに排卵誘起活性が見出されたことは、科学的に価値が高く、今後の実用化に期待したい成果である。アカウニについては、EST解析によって棘皮動物で初めてとなるGnRH(GnRH-1、GnRH-2 )を発見することができたことは科学的価値の高い成果である。
ウニリラキシン様遺伝子をアカウニ等からクローニングしたこと、クビフリン刺激によってマナマコ卵巣中に二次成分(COS)が産生されることを見出したことなども、将来の研究の展開によっては生物系特定産業上の貢献が期待できる。

(2) 中課題別評価

中課題A-1 「水産無脊椎動物生殖腺刺激ホルモン遺伝子のEST解析とクローニング」
(基礎生物学研究所 大野 薫)

マナマコ、アカウニ、マガキ、クルマエビにおてEST解析が行われ、他の中課題と連携した解析がなされ、種々の成果を得ている。EST解析と候補ペプチド/タンパク質の生合成を行うことによって、マガキの脳神経節・内臓神経節、アカウニの放射神経、マナマコの周口神経・放射神経、クルマエビの脳神経節・胸部神経節・腹部神経節などの神経発現遺伝子に特化したデータベースを構築したこと、アカウニからヒトデ生殖腺刺激物質と脊椎動物生殖腺刺激ホルモン放出ホルモンに対するホモログ遺伝子をクローニングしたこと、それら成果を他の中課題に提供し、生理活性の発見に結びつけたことは大きな成果といえる。排卵・卵核崩壊誘起活性を持つ周口神経由来の分画に含まれるペプチドのアミノ酸配列の決定、クルマエビのGnRH様遺伝子のクローニングなど、将来の実用的研究の基盤となる有意義な成果も得られている。

中課題A-2 「水産無脊椎動物生殖腺刺激ホルモンのペプチドーム解析と人工ホルモンの合成」
(九州大学大学院農学研究院 吉国通庸)

4種動物の生殖腺刺激ホルモン遺伝子の同定、マナマコCOSの同定、マガキ排卵誘起活性成分の同定、ペプチドーム解析による、排卵誘起等の新規活性の同定などは達成できなかったが、マナマコにおいて、卵成熟、放卵放精誘起活性を持つクビフリンペプチドの同定、合成に成功し、ナマコ種苗業界での実用化利用に道を開いた意義は大きい。今後、マナマコの人工採卵、採精に広く利用されると期待される。
クビフリン刺激によってマナマコ卵巣から分泌される二次成分(COS)の卵成熟や排卵を誘起する活性を見出したことは、構造の解明には至っていないものの今後の発展に期待したい成果である。生理活性の高いクビフリンの誘導体を見出したことは産業上の貢献度が高い成果といえる。二枚貝では初めて、マガキからGnRHとELHを発見することができたことは評価できる。

中課題B「水産無脊椎動物の生殖腺刺激ホルモンの生理作用解析」
((独)水産総合研究センター養殖研究所 山野恵祐)

他の中課題から提供された候補ペプチドやcDNAデータについて生理活性を検討し、実用化への道筋をつけるという研究全体の出口としての役割を適切に果たした。特にクビフリンの同定と作用解析を行い、現場での利用方法までの研究を進め、ナマコ採卵法に関する特許出願を可能とした点は大きな成果である。中課題A-2と連携して、マナマコにおけるクビフリンの生理作用を明らかにし、クビフリンを利用した事業規模で活用可能な産卵誘発法を開発しており、ナマコ種苗業界での実用化利用に道を開いた意義は大きい。この分子は小ペプチドであることから、将来、低分子有機化合物に置き換えられる可能性もある。そのような発展の方向も考慮すれば良い。
また、ウニ、マガキにおいて、放卵放精誘起活性のあるペプチドを見出している。マガキの産卵誘発ペプチドとウニ類のGnRHについて放卵放精活性を見出したことは評価できるが、それを利用した現場での技術開発の進捗がやや遅れている点は否めない。今後の発展に期待したい。