生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2011年度 事後評価結果

機能微生物ゲノミクスによる農耕地からの亜酸化窒素ガス低減化

研究代表者氏名及び所属

妹尾 啓史(東京大学大学院農学生命科学研究科)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

 (1)全体評価 

本研究の目的は、温室効果ガス亜酸化窒素(以下、N2O)除去能力の高い土壌微生物を利用して農耕地からのN2O発生量を低減化することである。水田土壌のN2O除去脱窒菌群を土壌DNA解析から明らかにし、新規手法を用いて単離し、その中からN2O除去能の高い菌株を選抜し、水田土壌の脱窒微生物群の生態と機能を明らかにした。また、N2O還元活性の高いダイズ根粒菌を非組換え体として作成し、根粒根圏からのN2O発生が低減化できることを実験室レベルで示した。さらに、N2O発生型・除去型土壌の環境条件と微生物コミュニティーの関係を明らかにし、N2Oを現場レベルでモニタリングできる技術を開発してN2O還元活性の高いダイズ根粒菌のN2O削減効果を圃場レベルで実証した。先導的な研究であり、得られた多くの知見は高い学術的価値があり、今後の研究開発や実用化の技術基盤をなすものであり、研究並びに産業応用への波及効果も期待できる優れた研究である。引き続き成果の発信を期待する。より多くの研究者がこの分野で取り組めるように専門書とくに方法論に関する専門書の迅速な出版が望まれる。

 

 (2)中課題別評価

中課題A「水田土壌微生物コミュニティーのN2O除去機能の解明と低減化への利用」

(東京大学大学院農学生命科学研究科 妹尾啓史)

多くの学術的価値のある成果を生み出して、先導的研究としては十分成功したといえる。水田土壌において分子生物学的手法と微生物培養法とを応用しN2O除去鍵微生物を同定、単離して、長年ブラックボックスであった水田土壌の脱窒微生物群の生態と機能を明らかにした。実験室内のモデル培養系だけでなく、全国の異なる土壌型の水田を対象にして微生物叢を明らかにし、圃場レベルにおいて科学的知見を得た。さらに、N2O除去能の高い菌株を選定し、モデル培養系で鶏糞ペレットからのN2O 発生を削減できることを示した。屋外圃場での実証に至らなかったことが惜しまれる。優れた研究成果が得られていると評価する。これからも様々な先端技術を駆使して多面的に取り組み、さらに素晴しい知見や成果をあげることを期待する。

 

中課題B「根圏微生物コミュニティーのN20発生メカニズムの解明とその低減化」

(東北大学大学院生命科学研究科 南澤 究)

精力的な取り組みを行い、DNA技術によるプロモーター強化法及び不均衡変異導入法によりN2O還元酵素遺伝子(nosZ)活性を強化したダイズ根粒菌(Bradyrhizobium japonicum)株(以下、nosZ強化株)を作出し、N2O発生や除去に関するメカニズム解明を中心に多くの学術的価値の高い研究成果を挙げることができた。また、日本各地の圃場で実施した土着ダイズ根粒菌のnosZ遺伝子診断に基づき、nosZマイナス株優占圃場にnosZ強化株を接種することによりN2O発生削減が可能であることを実験室レベルで証明した。発表論文の数、質の高さから明らかなように基礎研究としては十分成功したと言え、優れた研究成果が得られている。

 

中課題C「N20発生の要因解析と微生物コミュニティーによるN20発生抑制技術の評価と実証」

(独立行政法人農業環境技術研究所 生物生態機能研究領域 早津雅仁)

基礎研究というよりは寧ろ実用化研究に近い技術確立と圃場での実証試験を担当することが主な役割であった。国内各地のダイズ転換畑と水田で長期連続モニタリングを行って、N2O放出量とパターンに、施肥とダイズの生育時期および土壌型が大きく影響することを明らかにした。研究期間後半では、特に中課題Bと共同した不均衡突然変異導入Nos強化株の実践的な接種法の開発とダイズ屋外圃場でN2O 削減の実証に成功した。着実に研究を遂行し、研究面・産業応用面へ高い波及効果が期待できる様々な価値ある知見を創出した。優れた研究成果が得られたと評価する。なお、研究期間内に中課題Aで分離した脱窒菌株の圃場レベルでの評価試験を実施して欲しかった。