生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2011年度 事後評価結果

食品の安全性評価用超高感度ナノセンサーの開発

研究代表者氏名及び所属

今石 浩正(神戸大学遺伝子実験センター)

総合評価結果

当初計画通り推進

評価結果概要

 (1)全体評価 

本課題の目的は、ヒトP450酵素が種々のサブタイプを有すること、及び、緩い特異性を持つこと、の2点を利用して、どのサブタイプと反応するかというパターン(シグネチュア)により食品の安全性を評価するナノセンサーを作製することである。その着眼点・意義は高く評価される。カセットプラスミドを作る技術、組換え大腸菌を用いた発現系の確立など、新しい手法を用いて、多くのサブタイプのヒトP450を着実に取得し、ヒトP450酵素の調製などを順調に進め、食品成分とヒトP450酵素の反応を網羅的に解析することができ、既知の危険化学物質に関するモデル実験を行うことができた。ただ、オールマイティーに使用できるようなナノセンサーを目指したがために、取り組みが発散してしまったように感じられる。これからは、利用者が食品サンプルから調製した液体を一滴、化学チップに垂らすと食品が安全かどうか数秒~数分で判別できるチップの誕生を待望していることを見据え、チップの目的用途を明確にして、取り組むことを期待する。本課題全体としては、計画通りの成果が得られており、意義のある研究であったと評価する。

 

 (2)中課題別評価

中課題A「食品の安全性評価用P450酵素の調製」

(神戸大学遺伝子実験センター 今石浩正)

本中課題は、遺伝子クローニングから大腸菌発現解析、酵素活性評価、安全性評価、そしてタイプCセンサーの開発に至るまで非常に多岐に渡る取り組みを行なった。前半は地味な力技の仕事であり、地道によく頑張って取り組み、必要なヒトP450を全て準備することができ、頭の下がる思いである。今後は、センサーのコスト面と品質面から考えて、ヒトP450酵素発現量を高いレベルで精度良くコントロールできる技術開発が必要である。また、タイプCのセンサー開発ではアガロースゲルを安定して塗布する技術の開発に成功しており、計画通り目標を達成している。ただ、シグネチュアと毒性との相関を証明するデータの獲得や相関が存在する原理に関する知見を得るまでに至っていないことが残念である。以上、中課題全体としては、計画通りの成果が得られており、意義のある研究であったと評価する。

 

中課題B「食品の安全性評価用ナノチップの作製とP450活性測定」

(独立行政法人産業技術総合研究所 健康工学研究部門 小島正己)

本中課題はプロジェクトの中でナノチップの開発とそれを用いた代謝活性シグネチュアの取得に特化した。構造の異なる3つのP450酸素センサーを作製した。このうち、タイプAのチップがシグネチュアを取るに至ったことは評価される。一方、タイプCのチップはサイズを微小化する意義・検出限界・感度などの詳細を示すこと、及びタイプDのチップでは脂質膜を用いたことによる利点を示すことができたならば、さらに良い成果に繋がったと考えられる。また、食品中に含有される化合物及び食品からの抽出物を対象に代謝活性シグネチュアを取得できた。食品そのものを対象とした実験データを示せなかったことは残念である。以上、中課題としては、計画通りの成果が得られ、意義のある研究であったと評価する。

 

中課題C「P450発現大腸菌株を用いた安全性評価用化合物の生物生産システム」

(日本マイクロバイオファーマ株式会社 有澤 章)

本中課題は、全体の中でP450代謝産物の構造解析と大量調製を担当しており、黒子的役回りである。高い技術力をもってしっかりとした取り組みが出来ており、その役割を充分果たせている。その過程でP450による食品代謝産物及びその構造情報、CYP2C18の新規機能など多くの知見を創出できているが、情報発信がかなり少な目であったことは残念である。もっと積極的に成果をアピールすべきであった。以上、手法などに独創的な開発要素やアイデアは多くなく、様々な条件検討を着実に行なう地味な研究により組換え大腸菌を用いヒトP450変換の最適生産技術基盤を構築するなど、その目標を達成した地道な努力が評価される。計画通りの成果が得られており、意義のある研究であった。