生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2011年度 事後評価結果

精原細胞移植を用いた代理親魚技法の構築:サバにマグロを生ませる

研究代表者及び所属

吉崎 悟朗(東京海洋大学海洋科学部)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

本研究は、クロマグロの精原細胞を免疫系が未熟で移植拒否が不完全なステージのマサバ稚魚に移植し、マサバにクロマグロの配偶子を早期に安定して生産するシステムを構築することを目的とした。実施小課題は(1)海産魚における生殖細胞移植系の構築、(2)海産魚精原細胞のin vitro培養系の構築、(3)内在性生殖細胞を欠如した宿主魚の大量生産、であった。

(1)では、マサバの腹腔内にクロマグロの精原細胞を移植した。その結果、サバ科のうちマサバを用いた移植実験ではマサバ生殖腺への移動は見られなかったが、同じサバ科でクロマグロと棲息水温域の近いスマの仔魚を用いて移植を行ったところ、クロマグロ精原細胞のスマ生殖腺への移動と生着および精原細胞の減数分裂開始を確認した。これにより、生殖細胞移植系の構築には水温域など棲息環境因子を考慮した魚種の選定が重要であることが明らかになった。(2)では、クロマグロ精原細胞のin vitro培養系を開発する過程で、精原細胞の短期培養により、精原細胞の宿主生殖腺への移行と生存率の上昇を確認した。(3)では、産業上重要な魚種であるニジマス(低温魚)系でもCre-loxP系が作動することを確認できた。しかし、ジフテリア毒素遺伝子で生殖細胞を完全に除去することはできず、さらに改良を進める必要がある。代理親魚の選定に時間を要したため、未だ代理親魚からマグロを生ませることはできていないが、すでにクロマグロの生殖細胞を持つスマの雌雄親魚を作出しており、その産卵結果に期待する。

研究開始時の目的が明確であり、また研究の進め方は適切である。基盤技術開発や応用技術の開発研究の観点から見て大変レベルの高い研究である。成果の公表や特許取得も積極的に行われており、この点も高く評価できる。将来の生物系産業へのインパクトは大きく、貢献が期待できる。