生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2011年度 事後評価結果

バイオエネルギー生産のためのシロアリ共生系高度利用技術の基盤的研究

研究代表者氏名及び所属

守屋 繁春(理化学研究所)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

 (1)全体評価

本研究は、シロアリの腸内微生物共生系の機能を高度利用して、非可食バイオマスなどの未利用資源の糖化システムをつくるための基盤技術を構築しようとするもので、意欲的、かつ重要な研究である。シロアリの消化管の中の複合的な酵素系の解析と再構築を研究対象としており、中腸型消化系、後腸型消化系で機能する酵素群の獲得・解析を通して、木質系バイオマス糖化に有用な酵素群を選別・獲得できたことは科学的にも実用技術基盤としても高く評価できる。シロアリにおける多数のセルラーゼ関連酵素群の遺伝子の網羅的取得・解析・機能解明を行ったことは新しい有用な知見として評価できる。

これらの有用酵素を実用技術として高発現・高生産する系の構築については、成果は部分的であり、糖化リアクターの構築に関しては、小規模あるいは限定的ではあるが、構築しようとするリアクターが実際に機能する可能性が示せたことは評価すべきであろう。

多くの論文や学会での発表により情報発信が行われているが、特許が取得されていないのは残念である。

以上全体的に勘案して、優れた多くの成果を挙げており、弱点があるものの総合的に優れた研究であると評価する。

 

(2)中課題別評価

 中課題A「木質資源利用に必要な遺伝子資源の包括的な開発」

(理化学研究所中央研究所 守屋 繁春)

大型共生原生生物Trichonympha agilisのシングルゲノム解析を行い、本菌の糖化遺伝子の網羅的取得に成功した。また、高等および下等シロアリの消化管に由来するセルロース加水分解酵素の品揃えについては、ほぼ成功している。全体として最新の分子生物学的な手法が酵素の遺伝子の網羅的取得に威力を発揮した優れた研究であると認められる。後腸型の木質バイオマス分解系の酵素群の遺伝子解析や、機能解明を通して、補因子としてのグルクロン酸エステラーゼなど、糖化効率を高める幾つかのユニークな酵素群の作用を見出し、新しい優れた性質を示す加水分解酵素が種々得られている。一方、惜しむらくは再構築系の機能化に至っていない。しかし、全体的には基盤的にも応用的にも興味深い成果であり、高く評価できる優れた研究である。

 

 

中課題B「酵素遺伝子の高度組換え発現と有用物質生産エージェントの確立」

(東京大学大学院農学生命科学研究科 有岡 学)

各種のタンパク質発現システムを駆使して、シロアリおよび腸内共生原生生物由来のバイオマス分解関連酵素40種類の内、30種類程度の発現に成功し、また酵素機能の解析などによってシロアリ消化システム構築に最適な酵素の選択基準を明らかにしている。また、優れた性質を示す種々の新規の加水分解酵素を物質特許として是非特許化するべきである。麹菌による高発現に関しては、種々の努力は認めるが、結果的には成果は限定的であり、先への展開のネックになったともいえる。

総合的には、シロアリ由来のセルラーゼ関連酵素群の大半を遺伝子解析、特定、機能解明を行った点など、高く評価できる優れた研究である。これらは今後の活用の基盤となるものといえる。

 

中課題C「シロアリ消化系をモデルとした木質バイオマス総合利用システムの開発」

(農業生物資源研究所 渡辺 裕文)

  下等シロアリと高等シロアリの中腸の機能的差異を解明し、シロアリ類消化管の形態と機能を応用して、木質バイオマス転換系(セルロース分解系)を構築することを目指した。数種のバイオリアクター(プロトタイプ)を構築してその木質バイオマス分解効率を評価しているが、分解は微量であった。シロアリの腸の観察や、酵素濃度を明らかにして、モデル形成に最善を尽くした点は評価できる。小規模あるいは限定的ではあるが、構築しようとするリアクターがある程度機能する可能性を示せたことは評価すべきであろう。将来への展望を築いたという点では積極的に評価できる意義のある研究である。