生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2011年度 事後評価結果

有用物質・遺伝子・形質の探索と応用を目指した植物ケミカルバイオロジー研究

研究代表者氏名及び所属

浅見 忠男(東京大学大学院農学生命科学研究科)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

 (1)全体評価

植物ホルモン研究は農作物の生産制御に深く関わるものであり、ジベレリン(GA)、ブラシノステロイド(BR)、ストリゴラクトン(SL)については、我が国が世界に先駆けて研究してきた実績がある。本研究はそれらの実績をベースに、代表者が提案する新たな方法論である、変異体に生合成や受容体阻害剤を投与する方法を活用し、あたかも多重変異体のような反応をする変異体を見出す方法を採用したユニークな研究である。研究の結果、BRの生合成阻害剤、SLのミミックおよび生合成阻害剤、GAの受容体阻害剤といった生合成阻害剤や受容体阻害剤の開発にとどまらず、情報伝達に関連した遺伝子の発見と機能解明、さらに、それら遺伝子のイネにおける有用性の確認に至るまで、基礎から応用展開をにらんで幅広く展開された結果、優れた成果を上げるともに目標を達成した。これら多くの成果は、高レベルの学術誌の原著論文、内外の学会における発表、国際シンポジウムやセミナーの主催など積極的に情報発信にも努めた。このほか、10件に上る特許出願を行っている。これらのことから本研究を高く評価するとともに、今後も研究が継続され発展することを期待する。

 

(2)中課題別評価

中課題A「植物ホルモン機能制御剤の創製と遺伝学への応用」

(東京大学大学院農学生命科学研究科 浅見 忠男)

植物ホルモン機能制御剤の創製は直ちに農業生産に関わることから、世界的な関心が高い。本中課題は、BR生合成阻害剤の立体構造と活性相関、SL生合成阻害剤の植物種特異的活性、SL受容体と結合する化学的に安定なミミックの合成、GA受容体阻害剤の開発を行った。また、これらの化合物を用いて、SL変異体の単離、原因遺伝子の特定、SLシグナル伝達に関わるタンパク質間相互作用の発見、SLとGAのクロストークの発見、GAシグナル伝達に関わる新たな因子の発見、シグナル伝達ネットワークの検出等々、当課題担当者の研究実績を十二分に発揮して研究が展開され、基礎、応用の両面において重要な発見がなされている。特に、寄生雑草の発芽抑制による農作物の被害軽減の可能性を示した、GAによるSL生合成阻害作用の発見は実用化に大きな期待が持たれる成果であり、そのメカニズムの解明を期待する。本中課題の成果の多くは独創的であり、価値は高く、多くの学術論文も発表されている。また、特許も申請されているので、これらは十分、植物生長調節剤の技術シーズになると思われる。これらのことから本課題は高く評価する。

 

中課題B「ブラシノステロイド情報伝達機構のケミカルジェネティクス研究とイネへの応用」

(独立行政法人理化学研究所基幹研究所 中野 雄司)

本中課題においては、中課題Aで開発されたBR生合成阻害剤を活用して、BRのシグナル伝達の活性化された変異体を多数単離し、その遺伝子を特定するとともに、その解析を通じた、BRシグナリングネットワークの解明を積極的に行った。成果として、Bri1:bHLH型転写因子、bil5変異がゲノムの脱メチル化によること、BIL5タンパク質が形態形成と病害抵抗性の共制御機能を持つこと、サプレッサー遺伝子BSS1と活性化に関わるカイネース遺伝子BIL6が隣接していることをはじめとして、BIL3、BIL2、BPG2遺伝子の機能について明らかにした。また中課題Cと連携して、これらの遺伝子を導入した形質転換イネを作成し、バイオマス増産や耐病性付加などの知見をえて特許化するなど当初の計画を凌ぐ成果を上げている。なお、イネにおいて期待した病害抵抗性の向上については十分な成果が得られなかったものの、BR生合成遺伝子や情報伝達遺伝子の形質転換体の解析から種子収量増産あるいはバイオマス生産促進形質を発揮できる遺伝子の構築に可能性を見出したことは、今後の新産業創出へ寄与が期待できる。また、論文発表や学会発表、特許出願を積極的に進めたことは高く評価できる。

 

中課題C「植物ホルモン関連新規遺伝子のイネにおける機能解析と有用性の検討」

(独立行政法人農業生物資源研究所 森 昌樹)

本中課題は、中課題AおよびBと連携して、SL生合成阻害剤のイネでの活性評価、SLおよびBR関連遺伝子の形質転換体の作出を担当するとともに、BR関連遺伝子機能の解析研究を進めた。植物ホルモン関連遺伝子形質転換体の作出は地道な研究であるものの、本中課題の取り組みが、中課題A、Bの研究進展に果たした役割は大きい。一方、本中課題において、SL生合成阻害剤の分げつ促進効果やバイオマス促進効果を確認し、BR関連遺伝子機能解析ではシグナル伝達等の生理学的知見の集積や、形質転換体の作出によるイネ種子の長粒化形質の発現を明らかにした。これらの成果は独創的であり、基礎研究分野における価値は高い。SLやBRの関連遺伝子をイネに導入して形質を解析する研究は、労力と時間がかかるものであり、解析すべき阻害剤や遺伝子は多く存在しているので、今後とも研究を継続されることが期待される。なお、収量に至るデータの取得が必要なことなどから、本中課題の論文発表数は他の中課題に比べて少ないが、実用化を目指して積極的に特許出願を行ったことは評価できる。