(東京大学大学院農学生命科学研究科 松本安喜)
評価結果概要
全体評価
研究課題は魅力的な内容であり、社会的インパクトも大きいと期待される。基盤となる植物での発現系の確立についての努力は評価できるが、まだ発現量は少なすぎる。
候補タンパク質も広げすぎている。ワクチン開発という目的では、タンパク質発現に続いて投与システム、有効性の確認のための実験系確立なども必要となる。一方、腸管免疫機構、サイトカインの利用といった点では未解決の基礎的分野であって、現在の計画では、単純化しすぎている。個々の課題はそれなりに進展しているが、全体計画として眺めた場合には散漫であり、調整を計りながら研究目的を絞り、協調ある進展を目指すべきである。
中課題別評価
(1)遺伝子導入飼料作物の作成およびサイトカイン導入効果の検討
(東京大学大学院農学生命科学研究科 松本 安喜)
病原体抗原遺伝子の植物への導入に成功しているとはいえ、植物での発現系の開発が不十分であり、発現量を増加させる努力が必要である。新しい抗原として、オーエスキー病ウイルスやリーシュマニアを追加する必要はない。サイトカインの相互作用は非常に複雑であり、実用に結びつけられる段階ではない。狂犬病ウイルスG及び動衛研との共同研究としてのブタ回虫タンパク質に絞って進めるのが妥当である。
(2)液性免疫活性化を促すコレラ毒素A/B鎖遺伝子と家畜病原体感染防御遺伝子の融合遺伝子作成及びその組換え植物による翻訳産物の生化学的・免疫学的解析
(琉球大学遺伝子実験センター 新川 武)
コレラ毒素フラグメントをアジュバントとする条件についての検討では、それなりの成果が得られている。特にフラグメントAの利用による大分子量のタンパク質の投与系に期待したい。日本脳炎ウイルスについての研究も着実に進展している。マラリア原虫に関する探索研究において、そのライフサイクルをターゲットとした戦略と予備的データは新知見と今後への展開を期待させる。
(3)家畜感染病防御抗原の探索および遺伝子導入作物を用いた家畜疾病予防法の宿主動物を用いた効果検定
((独)農業技術研究機構 動物衛生研究所 辻 尚利)
ブタ回虫における防御抗原の発見は評価できる。しかし、使用しているマウスがTh2ドミナント系一種であることから、将来家畜への応用を考えた場合、遺伝子改変動物を含めた多種多系な動物を使用し、総合的に評価する必要がある。マダニ感染についても、ワクチン抗原としての候補を見いだしているが、短い残余期間における研究対象は絞るべきである。