生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2001年度 中間評価結果

共生微生物等を利用した荒廃地土壌の修復技術の開発

((独)農業技術研究機構 畜産草地研究所 齋藤 雅典)    

評価結果概要

全体評価

本研究は、荒廃地土壌を対象に、微生物機能を活用した新緑化修復技術を開発するための基礎的知見を得ることを目的としている。本研究は、全体的にみて基礎的な解析で大きな成果を上げている。すなわち、ラン藻の転写因子としてのcAMP受容タンパク質SYCRP1とそのターゲット遺伝子slr1667オペロンの解明、イネ科植物のエンドフィティックな「窒素固定嫌気コンソーシアム」の発見、VA菌根菌の菌株レベルでの同定法の開発、ポリ燐酸の菌糸内輸送における管状液胞の発見などが高く評価される。今後、これらの成果をさらに充実するとともに、これらをまとめることが望ましい。本研究課題には、基礎的研究要素と応用的研究要素がある。この両者をそれほど意識する必要はないが、基礎的研究成果がどのような応用研究に結びつくかを考えておく必要がある。応用的課題については、目標とする達成段階を明確にする必要がある。

中課題別評価

(1)耐乾性ラン藻の耐乾機構の解明とラン藻を利用した荒廃地乾燥土壌修復技術の開発
(東京大学大学院総合文化研究科 大森 正之)    

本研究では、乾燥地のパイオニア植物であるラン藻の耐乾性機構を解明し土壌修復技術を開発することを目的として、耐乾性等の環境適応性に関与していると考えられるアデニル酸シクラーゼの遺伝子などを20種以上クローン化した。さらに、Synechocystis sp.においてcAMP受容タンパク質SYCRP1が転写因子であることを明らかにした。次に、マイクロアレイによりSYCRP1のターゲット遺伝子をスクリーニングし2つのオペロンを発見した。その一つslr1667オペロンについて、プロモーター領域におけるSYCRP1結合部位を明らかにした。これらの成果が評価できる。また、Nostoc communeの土壌施用によって土壌表面からの水分消失を抑制する効果を実証した。以上、着実に成果を挙げており研究進捗状況には問題がないが、基礎的研究成果を荒廃地土壌修復へ利用するための具体的な繋がりを示す必要がある。

(2)パイオニア植物におけるエンドフィティック共生微生物の機能解明とその利用技術の開発
(東北大学大学院生命科学研究科 南澤 究)  

本研究は、荒廃地土壌修復のために、パイオニア植物に生息するエンドフィティック共生微生物の機能を解明するとともに、その利用技術を開発することを目的としている。このために、野生イネと栽培イネから窒素固定菌Herbaspirillumを分離し、窒素固定を行っていることを証明した。また、野生イネやススキから、「窒素固定嫌気コンソーシアム」を発見した。これは、窒素固定嫌気性菌Clostridiumが他の好気的細菌と共生することによって窒素固定能を発現する現象である。この予想外の発見は、著しい研究成果であると評価できる。さらに、窒素固定菌を栽培イネに戻す研究も進展しており、研究進捗には問題がない。今後、荒廃地土壌修復に向けて、利用技術開発に具体的な提案がほしい。

(3)パイオニア植物におけるVA菌根菌の機能解明とその利用技術の開発
((独)農業技術研究機構 畜産草地研究所 齋藤 雅典)    

本研究は、パイオニア植物の養分獲得におけるVA菌根菌の機能解明とその利用技術の開発を目的としている。このために、VA菌根菌の特異的プライマーを用いる菌種の識別方法を確立し、新規分類群Archaeospora属の普遍的存在を明らかにした。また、菌根菌菌糸内でのポリ燐酸の移送に管状液胞が関与していること、燐酸の植物細胞への放出にフォスファターゼが重要な働きをすること、グルコース添加により燐酸の放出量が増加することなど、多くの基礎的知見を得た。一方、火山灰泥流地帯におけるパイオニア植物の侵入において、イネ科植物が菌根菌の増殖を助け、菌根菌がマメ科植物に対する燐酸の供給を助け、マメ科植物の窒素固定がイネ科植物の生育を助けるという菌根菌と植物との相互作用について考察した。これら着実な成果と予想外の新知見を得たことが評価される。今後、本研究成果と各中課題との関連をどのように結びつけていくかが課題である。応用課題については、目標課題を明確にして達成段階を示す必要がある。

(4)共生微生物等の機能を活用した荒廃地土壌の新修復技術の開発
(山口大学農学部 丸本 卓哉)    

本研究課題は、荒廃地土壌修復にあたって共生微生物等の機能を活用した新しい技術開発を目的とする。Gigaspora margaritaに対する特異的DNAマーカーを開発し、細胞内容物の自家蛍光、アイソザイム分析との組み合わせにより菌株レベルの識別法を開発した。これにより緑化施工地に接種したG. margaritaが4年間にわたり定着していることを証明した。また、外生菌根菌の接種菌の識別法も確立した。これらの研究成果が評価できる。さらに、菌根菌の現地接種試験を行うとともに、ラン藻と窒素固定菌を光硬化性樹脂によって固定化する方法を検討した。これらの結果については、今後の進展に期待したい。今後、最終的な接種資材の開発研究を、中課題1、2、3から提供される菌株を用いて精力的に行う必要がある。フィールド試験は、短期間で結果を求めることには無理があるので、着実に進める必要がある。