生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2001年度 中間評価結果

植物の耐寒性形質に関わる分子機能の複合的解析とその応用

(岩手大学農学部付属寒冷バイオシステム研究センター 上村松生)

評価結果概要

全体評価

本研究は、高耐寒性作物の開発のため、アクティベーション・タギング法により新しい耐寒性関連遺伝子の探索を行うとともに、多様な耐寒性因子の機能を複合的に評価する方法の確立を目指している。新たな凍結制御タンパク質の同定や、耐寒性関連遺伝子の機能を複合的に評価する方法の確立では、低温馴化応答の時間経過を複数のパラメータを用いて解析するなど、確実性の高い研究成果が得られており、評価できる。現在までのところでは中課題(1)と(2)の研究が遅れており、残りの半期では、複数の突然変異体選抜法を採用して、一層の努力をする必要がある。

中課題別評価

(1)アクティベーション・タギング法を用いた植物の耐寒性関与遺伝子群の検索
(東京大学大学院理学系研究科 西田生郎)

シロイヌナズナにおける耐寒性獲得の葉齢差の解析では一定の結果を得ているが、本中課題が主目的とするアクティベーション・タギング法を用いた耐寒性関連遺伝子の単離に関しては、耐寒性の増大した2種の形質転換体を得ているものの、遺伝子の単離に至ってなく、研究が立ち遅れている。現在までの実施状況から判断すると、計画の達成を図るためには、アクティベーション・タギング法だけでなく、新しい耐寒性関連遺伝子に至る新たな確実性の高い遺伝子単離法の導入が必要性であろう

(2)植物耐寒性関与遺伝子のアクティベーション・タギング法による分離と遺伝子導入による植物耐寒性の改良
(九州大学大学院理学研究院 和田 元)

シロイヌナズナの胚軸カルスを用いたタグラインの構築やスクリーニング条件の確立は進んだが、現在までに耐寒性が増大したタグラインが得られておらず、耐寒性関連遺伝子の単離に至っていない。研究計画の達成のためには、今後、画期的なスクリーニング法の確立と新たな耐寒性関連遺伝子の確実性の高い遺伝子単離法の導入が必要である。本研究では、低温生長性関連遺伝子の探索のためにタバコも対象植物となっているが、研究の進捗状況に鑑みシロイヌナズナに絞り込むことが得策ではないか。

(3)耐凍性増大の分子的メカニズムに関する基礎的研究:生体膜の安定性に注目して
(岩手大学農学部付属寒冷バイオシステム研究センター 上村松生)

低温馴化過程を凍結障害機構、細胞膜脂質やタンパク質、細胞内溶質など複数のパラメータを用いて解析し、細胞膜タンパク質の変動を明らかにするなど、新規性、将来性のある成果が得られていることは評価できる。今後は、細胞膜タンパク質をコードしている遺伝子やタンパク質の機能を明らかにするとともに、それらと耐寒性増大のカイネティックスとの関係を明確にすることが望まれる。

(4)高耐寒性植物に存在する凍結制御機構に関わる分子機能の解析
((独)農業生物資源研究所 石川雅也)

(5)低温誘導遺伝子の耐凍性に及ぼす機能的役割の解析
(北海道大学大学院農学研究科 藤川清三)

多様な植物や部位に冬季特異的に蓄積する複数のタンパク質を単離・同定し、一部については遺伝子を単離するとともに、単離した遺伝子をシロイヌナズナへに導入して耐凍性を検定するなど、研究は概ね計画に沿ってなされており、一定の評価を下すことができるが、新規性が余り認められない。今後は、ターゲットを絞ることが必要であり、耐凍性増大に結びつく新規性の高い成果を期待したい。