生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2001年度 中間評価結果

肥満・脂肪代謝制御の分子機構と食品中の活性化因子に関する研究

(北海道大学大学院獣医学研究科 斉藤 昌之)

評価結果概要

全体評価

本研究は生活習慣病の危険因子である肥満について、予防を目的としてミトコンドリアの脱共役タンパク質(UCP)と脂肪細胞の増殖・分化・アポト-シスなどに重要な役割を果す核内受容体PPAR についての機能発現・調節機構などの基礎研究を行うとともに、食事因子特に脂肪酸関連物質による機能調節を目指している。 UCPの発現機構の解明、PPARの活性化因子の発見など一定の成果が得られているが、アラキドン酸カスケ-ドに関する研究はやや遅れており、研究の進捗に関しては必ずしも足並が揃っているとは言い難い。今後は各中課題とも前記のタ-ゲット分子に的を絞って研究を推進すべきである。

中課題別評価

(1)エネルギ-消費分子脱共役タンパク質の制御機構と食品中の活性化因子に関する研究
(北海道大学大学院獣医学研究科 斉藤 昌之)

mRNAの発現量に基づき、各種細胞でのUCP発現、βアドレナリン受容体刺激によるUCP発現誘導など一定の成果を上げているが、mRNA の量は必ずしも最終産物であるタンパク質の量を反映するとは限らない。それゆえ、UCPはタンパク質のレベルで調べるべきである。そのような条件下で分子生物的手法でUCPタンパク質量を増加させ、肥満との関係を調べることを希望する。これによって本プロジェクトの柱が出来上るものと考えられる。今後、他の中課題もこのタ-ゲット分子に関連した研究展開が必要である。

(2)脂肪細胞のライフサイクルを支配する分子機構の解明とその制御法
(京都大学大学院農学研究科 河田 照雄)

PPARγの共役因子の研究を行い、肥満・糖尿病マウスにおいてCBP遺伝子の発現が高いことを見出した。このことは肥満と共役因子の関連性を示唆するものである。また、PPARγを活性化する因子(テルペノイド類)を発見したことは興味深い。
PPARに関する基礎的知見が集りつつあり、その評価系も完成したので、これを用いる有効物質の大規模スクリ-ニングの成果が期待される。しかし、脂肪細胞の分化促進をPPARγの活性化とからませて調べるだけでなく、アンタゴニストなどによる分化抑制を研究することも重要と考えられる。

(3)食品由来脂肪酸の生体内代謝とアラキドン酸カスケ-ド反応を介した脂肪細胞制御に関する研究
(島根大学生物資源科学部 横田 一成)

脂肪細胞の分化過程での遺伝子発現、リポキシゲナ-ゼの構造と機能、動物細胞でのアポト-シスの評価系の構築などにおいてそれなりの成果は得られているが、これらの成果を脂肪代謝制御機構と直接関連づけて示すことが今後の課題である。アラキドン酸カスケ-ドに関しては、n-6 系はすでによく調べられている。従って、n-3 、n-9 系についての検討が期待される。他のグル-プに比べ研究の遅れが目立つので、目標を絞って、集中的に研究を進める必要がある。

(4)食品素材中の脂肪酸関連有効成分の検索とその食品化学的特性に関する研究
(北海道大学大学院水産科学研究科 宮下 和夫)

最終目標のプライマリ-食品につながると考えられる共役不飽和脂肪酸を食品素材中に見出すなど、一定の成果が得られている。当初の計画では、脂肪酸関連の有効成分を化学的方法又は酵素的方法で大量調製する方針であったが、遺伝子組換えなどによる大量調製の技術が他の研究機関で既に行われていることから、天然の食品素材から有効成分を得る方向に変更したことは賢明な選択である。
共役不飽和脂肪酸は、酸化安定性が低いことが示されたことから、今後有効な抗酸化剤の検討が必要である。
海洋動物の n-3 系ポリエン酸の研究は副作用を考えるとあまり好ましいものではない。むしろ、部分水素添加により機能開発を行う方向も検討すべきと考える。