生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2002年度 中間評価結果

インスレーターの作用機構の解明と有用生物作出技術の開発

(広島大学大学院理学研究科 赤坂甲治)

評価結果の概要

全体評価

インスレーターを利用して染色体に導入した外来遺伝子を安定的に発現させることにより、バイオテクノロジー分野で広い応用を目指すという狙いは的を射たものである。全体としては計画通り進んでいるが、すべてが順調に進んでいるわけではない。順調に進んでいる計画はそのまま進展させると共に、順調でない部分は再検討して至急プロジェクトを軌道に乗せることが求められる。あと2年でまとまった研究成果が得られることを期待する。インスレーターの作用機構の解明は本計画が着実に進捗し、かつ、将来的にも大きく発展するために不可欠のものであるので、中課題(1)と(2)では、集中的にこの問題にチャレンジしてほしい。

中課題別評価

(1)「インスレーターの検索とその分子機構の解明」
(広島大学大学院理学研究科 赤坂甲治)

インスレーターの作用機構を明らかにすることにより、研究を拡げるための基礎が確立されることになる。着眼はよいが、実験の評価をもう少し厳しくしたほうがよいのではないか。GSAP(Gストレッチ結合因子)はこのグループが初めて発見したタンパク質なので大切に育てることが重要であり、説得力あるデータを揃えることも重要である。計画全体の連携にもうひとつ努力をされたい。GSAPや転写因子CTCFの機能解析を進め、インスレーターの分子基盤を明らかにすることにより、応用をめざしているグループに必要な情報を発信してほしい。また、インスレーターの分子基盤に関する論文を質の高いジャーナルに発表することが重要である。

(2)「インスレーターの抗メチル化効果の解明」
(大阪大学蛋白質研究所 田嶋正二)

このグループのDNAのメチル化に関する基礎的研究には成果があったが、インスレーターの分子基盤の解析とかみ合っていない。問題を解決したというよりは、問題を見つけた観がある。インスレーターとDNAメチル化についての関係がウニインスレーターで明確に示せないなら、インスレーターの作用機構にDNAのメチル化は根源的な役割を果たしていないことであり、重要な知見である。これを明確にしないと研究の完成は難しい。本中課題がプロジェクト研究に有効に貢献するには、この時点で戦略を立て直すことが必須である。インスレーターの利用面を拡大するための評価系を確立することが望まれる。インスレーターの作用機構解明に集中してほしい。

(3)「植物におけるインスレーターの機能解析とそれを利用したワ クチン生産植物の作製」
(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス学科 吉田和哉)

ウニインスレーターが植物細胞で機能することを確認した成果は世界初で、その応用に道を開く重要な成果である。植物体での新規物質の生産性を向上するために、外来遺伝子の安定的発現は極めて重要である。発現安定化の定量化を試み、ある程度の成功を収めており、これまでのところ、一つ一つの実験成果が着実に蓄積し、順調に進んでいることがうかがえる。植物個体レベルのインスレーターの機能解析と、ワクチン作製への応用をめざしてこのまま進めてほしい。他のグループをリードする力量があると思われるので、その方向でも努力してほしい。

(4)「インスレーターを利用した導入遺伝子の持続的発現技術の開 発」
(京都大学ウイルス研究所 松岡雅雄)

動物培養細胞でインスレーターを組み込んだ遺伝子が安定的に発現することをはじめインスレーター効果の経時的変化などを示し、研究は予定通り進んでいる。ウニインスレーターを遺伝子治療に応用するという独創的な計画で、日本発のものとしてまずそのチャレンジを評価したい。細胞により抗サイレンシング効果が異なること、効果が経時的に増強することなどをどう考えて行くかは、今後の研究のブレークスルーになるのではないかと思われる。インビボでのインスレーターの機能解析と、植物ワクチン検定をめざして一層の努力が望まれる。今のまま、進めてほしい。

(5)「インスレーターを用いた遺伝子の高発現組み換えクローン家 畜の作出」
((独)農業生物資源研究所 安江博)

インスレーターを用いて再生医療用動物の作出を計画するのは独創的である。マウス繊維芽細胞でインスレーターを導入遺伝子の両側に外向きに付けることで発現量を増加させることを示し、実用化への可能性を示唆するデータを得ているなど、ほぼ予定通りの進捗を見せている。マウスやブタの個体レベルでのインスレーターの機能解析という重要な任務を着実に遂行してほしい。興味深い研究計画を提案しても、それを実行できなければ、意味がない。研究成果は論文にして完了するものであり、得られた成果は一流のジャーナルに発表することが望まれる。