生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2002年度 中間評価結果

カイコの遺伝子機能解析システムの構築

((独)農業生物資源研究所 田村俊樹) 

評価結果の概要

全体評価

本研究課題は、カイコにおけるゲノム研究とポストゲノム研究の両輪の役割を同時に担っている重要なプロジェクトと考えられる。
研究は、当初計画に沿って順調に推進されており、全体として研究計画をやや上回る進捗状況にあると評価できるが、後半の2年を迎えるに当たって、以下の諸点をもう一度確認することが必要であろう。
1.本課題の最終目標は何か、遺伝子機能解析の対象は有用昆 虫としてのカイコか、それとも有害昆虫のモデルとしてのカイコか。
2.カイコ・ゲノムプロジェクトとどう棲み分けるか。相補性をどう模索するか。
3.昆虫特異的遺伝子機能とは何か。例えば、Z染色体の遺伝子レパートリーの特異性、その発現特性、休眠性、不妊性、耐 病性をどう捉えるか。
4.いわゆる「昆虫工場」的発想は、今でも有効か。
これから後半の2年間の研究成果としては、未踏への挑戦によって、予期できなかった新事実の発見や、真に革新的な技術体系の開発が望まれる。

中課題別評価

(1)「形質転換カイコの作出効率の向上と利用技術の開発」
((独)農業生物資源研究所 田村俊樹)    

本中課題は、効率の良いDNA注射法の開発と新たなプロモーターの利用によって、効率ならびに信頼性の高い形質転換法の開発に成功した。その意味で、すでに本来の責務の大半を遂行したといえるが、今後は、自前のベクターやマーカーをどう準備し、さらに作出した形質転換体の品質をどう保証するのか等、形質転換体作出に関する独自の技術体系の構築に向けて研究を進めることを期待する。また、今後この技術を応用するためには、形質転換体において何が起こったのかを詳細に調べ、その分子的基礎を固めておくことは、この技術を応用してゆく上で、不可欠な過程であろう。

(2)「カイコ全発現遺伝子のDNAチップ作製とその利用の技術開発」
((独)放射線医学総合研究所 森明充興)  

  本中課題の使命は、ESTデータベースのカバー率を着実に向上させ、それに基づいてESTマイクロアレイを網羅的に作製し、研究資材として完成することなので、やるべきことは決まっており、主な制限要因はおそらく資金だけであろう。その意味でも、現在進行中のカイコ・ゲノムプロジェクトとの相互乗り入れ的、ないしは相補的連携が望ましい。例えば、完全長cDNAデータベースの作製が必要な課題であることは理解できるが、現在の本課題全体の研究費の額から考えると、これに頼って完全長cDNAデータベース作製に着手することには相当の無理がある。ゲノムプロジェクトに大いに利する課題なので、そちらからの資金の導入を考えるのが妥当であろう。

(3)「形質転換系、既存突然変異およびDNAチップを用いた家蚕遺 伝子の機能解析」
(東京大学大学院農学生命科学研究科 小林正彦)  

本中課題は、中課題(1)および(2)との緊密な連携のもとに、カイコゲノムの持つ特性について多面的、かつ精力的に取り組んでおり、いくつもの興味深い成果を得ている。しかし、生命科学のフロンティア開拓研究として学術的な貢献をするという見地から見ると、特に研究項目ア)「ゲノム情報と突然変異体を用いた遺伝子の機能解析」においては、総花的という印象を拭えず、その結果、個々の成果も率直に言って、突っ込みの足りないうらみがある。今後は、本研究課題の中で進める研究については、ぜひとも対象遺伝子や生命機構を絞って、それぞれの研究を、より深化させることを期待したい。