生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2002年度 中間評価結果

ダイオキシン類の微生物分解系を用いた環境修復のための基盤研究

(東京大学生物生産工学研究センター 大森俊雄)

評価結果の概要

全体評価

本研究は、ダイオキシン類の難分解性環境汚染物質に対し、微生物を用いた分解除去技術開発のための基盤研究である。すなわち、ダイオキシン類の分解系酵素群の構造解析、分子モデリング手法を開発し高分解能酵素の作成、分解遺伝子の異種微生物間移転現象を利用したダイオキシン分解能の強化技術の確立である。
ダイオキシン分解系酵素群の構造生物学は重要であり、本研究は大きな意義がある。ダイオキシン分解酵素CarAa,CarAc,CarCの結晶構造解析、CumDの変異酵素の作成や動力学的解析、コンピュータ分子モデリングの手法開発、ダイオキシン分解系遺伝子群(car遺伝子群)の遺伝子伝播解析等の進捗状況は順調であり、研究成果が得られている。しかし、過大な研究計画により目標に達していない項目もあり、全体としてまとまりに欠ける。今後研究項目の統廃合の検討が望まれる。研究成果の公表は多く、今後の更なる発展が期待される。

中課題別評価

(1)「ダイオキシン・ジベンゾフラン分解系酵素群の機能構造解析と遺伝子伝播機構の解明」
(東京大学生物生産工学研究センター 大森俊雄)    

CA10株由来のCarAa,CarAc,J3株由来のCarCの立体構造解析は、高く評価できる。 改変体酵素の作成や酵素-基質複合体の結晶構造解析などに遅れがある。DBF63株のdbf遺伝子群の解析では成果を上げているが、DbfA1A2のX線結晶構造解析は厳しい状況にある。目的酵素の構造決定を1菌株に固執することなく、異なる菌株での類縁酵素にまで広げて行おうとしていることは望ましい。ダイオキシン分解系遺伝子群の遺伝子伝播の解析は評価できる。今後、トランスポゾンの転移やプラスミドの伝達・保持に寄与する条件を検討し、環境中での伝達に寄与する要因にかかわる成果が必要である。

(2)「コプラナーポリ塩化ビフェニル分解系酵素群の機能構造解析 とダイオキシン類分解系酵素の分子モデリング」
(東京大学農学生命科学研究科 若木高善)    

クメンジオキシゲナーゼの精製・結晶化とX線構造解析、ヒドロキシラーゼ(CumD)の変異酵素作成と動力学的解析は評価できる。IP01株のCo-PCBs分解能の結果は、未熟であり再考が望まれる.IP01株のCo-PCB分解能は不明確であり、PCB分解系と結びつけず、クメン分解系として構造-機能相関を明確にし、ビフェニル/PCB分解系とクメン分解系の比較をすることで、ビフェニル/Co-PCBs分解系への転換も容易になるように思われる。ジオキシン分解酵素への変換にこだわらず、コプラナーPCB分解酵素そのものの研究として計画を練り直し、分解されにくい塩素置換体の分解活性をあげることを目標にするのが現実的ではないかと思われる。
分子モデリングについては、自由エネルギー計算ソフトウェアやab initio構造予測プログラムの開発、ホモロジーモデリング手法による立体構造の予測などの成果が評価できる。構造既知蛋白質の構造予測を行い、精度を明確にすることも必要である。実際に得られた分解酵素の構造に基づいた構造モデリングの推進に期待したい。