生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2002年度 中間評価結果

ラショナル・プロテイン・デザインおよびセレクション法の確立による「スーパープロテイン」の創出

(東京大学大学院工学系研究科 多比良和誠)    

評価結果の概要

全体評価

本プロジェクトは、非天然アミノ酸を導入することにより、天然に存在するタンパク質では持ち得なかった高機能な性質を新規に獲得し、利用価値の高いタンパク質を開発することを最終目標としているが、現段階ではかなり厳しい状況にある。RPS(ラショナル・プロテイン・セレクション)とRPD(ラショナル・プロテイン・デザイン)がカップルして始めてスーパー・プロテインが創出できることになるが、現状では、RPSの進展にRPDがついていっていない。総合的に見て、評価すべき点は、RPSのみであり、それ以外の点について、本研究課題が標榜する「スーパープロテインの創出」を支持する成果はない。目的を明確に設定し、全てのエネルギーを集中し、インパクトのある成果を出すことを期待する。

中課題別評価

(1)「「スーパープロテイン」の創出にむけた新機能タンパク質の無細胞系新規選択法の開発と有用タンパク質の創生」
(東京大学大学院工学系研究科 多比良和誠)

タンパク質をセレクションするRPSは、複数の新規な手法の開発と実施例の成果が出ており、インパクトも大きく、成果の水準は高いと考えられ、十分に評価できる。この手法により、単に他の分子に結合するタンパク質を選択するだけでなく、具体的に機能を持つタンパク質を選択する手法を確立し、その応用を是非具現化していただきたい。RPDについては、何がラショナルか判断できかねる。手元にあり、やり易いことのみを総花的に行うのではなく、明確な目的志向が望まれる。

(2)「Rational Protein Selection法による新機能糖結合タンパク質の創出」
(山形大学理学部 長谷川典巳)    

微生物由来のキシラナーゼの触媒ドメインとキシラン結合ドメインの機能向上を目指している。ドラッグ・デリバリー・システムへの適用という目的は優れたものと考えるが、それに見合う研究の進め方、対象の選択がなされていない。RPSとRPDによる変異体タンパク質を、高効率でインビトロ合成できるシステムを確立し、創出されたタンパク質の大量発現に基づいた構造解析に結びつけていただきたい。さらに、少なくとも非天然アミノ酸を導入したキシラナーゼを開発しなければならない。時間はわずかしか残されていないが、ガムシャラに取り組んでいただきたい。

(3)「スーパープロテイン創出にむけたタンパク質分子のデザインと構造解析」
((独)食品総合研究所 小林秀行)    

キシラナ-ゼを対象とする研究が、なぜスーパーでなければならないのか、本研究でなされた研究手法がスーパーキシラナ-ゼの開発につながるのか疑問がある。キシラナ-ゼ活性を上げるためには、触媒活性におけるヒスチジンの役割を解明しなければ、非天然型ヒスチジンアナログを導入しても、意味のあるデータは得られない。ラショナル・デザインというが、現実にはランダムで出たとこ勝負的な取り組みに見える。本当にキシラナ-ゼ活性を上げたいのなら、より一層キシラナ-ゼを精査する必要があると思われる。
研究が分散している印象があるので、今後は、本中課題の役割であるRPSのための分子軌道計算を体系的に行い、有効な非天然アミノ酸の選択とその設計に焦点をあて、本プロジェクトのRPD部分における成果を出して、他のグループの研究に対して速やかな方向性を与えるようにしてほしい。