生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2003年度 中間評価結果

家畜とヒトの炎症性腸疾患の発生機序と関連性の解明

((独)農業・生物系特定産業技術研究機構 動物衛生研究所 百渓 英一)

評価結果概要

(1)全体評価

本研究は、炎症性腸疾患であるウシのヨーネ病とヒトのクローン病および潰瘍性大腸炎の病態が腸粘膜の著しい肥厚を伴う慢性肉芽腫性腸炎であるという類似性に注目して、これら疾患の発病機構についての基礎的解明を目指したものである。
ヨーネ病の初期感染における免疫応答、クローン病の病態モデル動物の病態解析、常在型マクロファージの細胞生物学的研究およびこの細胞と神経細胞やカハール介在細胞(ICC)との相互作用、粘膜マクロファージと腸粘膜上皮細胞との相互作用など、全体として精力的な研究が行われ、いくつかの新しい貴重な知見が得られた点は評価してよい。
しかし、それぞれの成果が炎症性腸疾患の発病機構の理解にどのように生かせるのかについての展望はまだ示されていない。
細菌感染症として原因が明らかで発病機構は不明なヨーネ病と、原因、発病機構ともに不明のヒト難病であるクローン病、潰瘍性大腸炎を研究対象に取り上げている以上、多面的な解析にならざるを得ない点は理解できるが、これまでに得られた多くの断片的成果を総合的に比較検討して、今後の研究方向を整理することが必要であろう。

(2)中課題別評価

1「ウシヨ-ネ病とヒトの炎症性腸疾患における粘膜環境維持機構の解明」
((独)農業・生物系特定産業技術研究機構 動物衛生研究所 百渓 英一)

M細胞を含むドームと樹状細胞の機能や粘膜上皮細胞のアポトーシスの誘導機構などに関する知見が得られ始めており、ヨーネ病の初期感染における生体応答がかなり明らかにされることが期待できる。一方、ヨーネ病は慢性経過をたどる疾患であり、実験的に短時間で結論を出すことはできないが、病態全体を把握する研究も同時に進める必要がある。
2の研究課題では、クロ-ン病における神経叢の神経ネットワーク、ICCネットワークや平滑筋の変化が中心課題となっているが、今後2のグル-プと連携し、クロ-ン病における粘膜の変化についての研究が必要である。

2「ヒトクロ-ン病と家畜の炎症性腸疾患における消化管運動障害機構の解明」
( 東京大学大学院農学生命科学研究科 尾崎 博)

常在型マクロファージの性質や腸炎モデル動物の病態発生の機構がかなり明らかにされた。腸炎発症時に発現が変化する遺伝子や蛋白が同定されており、このデータに基づき、新たな病態解析が進む可能性がある。
このように、多くの興味ある成果が得られているが、これらの成果は主として炎症性腸炎モデルで得られたものであり、これをヨーネ病の発病機構の理解にどのようにつなげるのかが、これからの課題であろう。
1の研究課題では、ヨ-ネ菌感染時における腸粘膜上皮とマクロファージとの関係を中心に研究が進められているが、今後1のグル-プと連携し、ヨ-ネ菌感染時における筋層間神経層や平滑筋細胞に関する研究が必要である。