生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2003年度 中間評価結果

昆虫の抗微生物タンパク質の特性解明と利用基盤技術の開発

評価結果概要

(1)全体評価

全体として、研究は当初の予定より遅れがちであり、それを補う意図で着手された研究も必ずしも順調に進んでいない。研究計画に示している「昆虫の抗菌タンパク質を畜産分野の耐性菌感染症治療に応用する」という課題については、前半の研究の進捗状況と成果を勘案すると、いきなり応用を考えることは難しい状況であり、このままの形で研究を続けても課題の達成は不可能と考えられることから、後半の研究体制には思い切ったリストラが不可欠であろう。
中課題1と中課題2の研究は、ショウジョウバエ以外の昆虫を対象としていること、中課題2で開発された技術が画期的であることから、新たな技術を利用して昆虫生理学的な基礎的研究に徹する方向へと転換する方がより意義のある多くの成果が期待出来るであろう。

(2)中課題別評価

1「昆虫の抗微生物タンパク質の特性解明と改変」
((独)農業生物資源研究所 山川 稔)

昆虫から抗菌活性を持つタンパク質を分離・生成し、そのうち1種類について改変ペプチドを作成し、抗菌効果を確認した。このペプチドはメチシリンとの相乗効果をもつこと、抗菌効果はスーパーオキサイドの発生によらないこと、ペプチドに抗原性がないことなど、興味ある成績を得ている。
後半の課題の中に、細胞内シグナル伝達機構の解明や、転写因子の役割の解明などを挙げているが、これらは一部、課題2と重なる。
全体の成果を考えるならば、本来の目標である抗微生物ペプチドの探索と改変に直接関連したテーマに集中すべきである。できるだけ多くの抗細菌・抗真菌タンパク質について、その特性を解明し、改変ペプチドを合成し、その基礎的な性質を明らかにすることを目指すことを期待する。これまでに2種の抗ウイルス活性を持つタンパク質を得ているが、余裕があれば、このタンパク質を含めて、昆虫の抗ウィルス活性物質についての研究を推進することを期待したい。ウイルスに対する昆虫の防御機構は全く未開拓の分野で、成果をあげれば、この分野で世界をリードするトップランナーになることができる。
後半の2年間は、焦点を絞り、研究計画を十分吟味して、前半で散漫になった研究体制の再構築をすべきである。

2「昆虫の抗微生物タンパク質遺伝子発現抑制実験系の確立と微生物感染に与える影響の 解明」
(京都工芸繊維大学繊維学部 森 肇)

カイコで個体レベルにおける遺伝子の簡便なノックダウン技術が実用の域に達した意義は大 きい。後半の研究の、基礎研究としての進捗に期待をもたせる新技術であると評価でき、中課題1と密接に提携しつつ、微生物ペプチド誘導の分子機構の解明にとり組むことが望ましい。
この技術は、本研究のみでなく、多くの研究成果が集積されている日本のカイコを用いた研究をさらにレベルアップすることに貢献するであろうと思われるが、その先鞭をつけるためにも、抗微生物タンパク質遺伝子発現抑制実験系を用いた解析研究を強力に推進することは重要である。ただし、その場合、成果の積極的公表が研究継続に当たっての必須条件として要求したい。
なお、培養細胞系の研究は、これまで、見るべき成果が得られておらず(論文数0)、このままでは、後半の成果も多くを期待できないので、整理・縮小を考えるべきである。

3「昆虫の抗微生物タンパク質改変ペプチドの機能評価と家畜感染制御技術の確立」
((独)農業・生物特定産業技術研究機構 動物衛生研究所 廣田 好和)

中課題1が、画期的な新規の改変ペプチドの開発に成功しない限り、応用研究としてのインパクトは低いので、このままの形で研究を続ける意義は小さい。
しかし、マウスを用いた実験で改変ペプチドがMRSA感染症阻止に有効であることについては予備的な成績を得ており、今後さらに基礎的な検討を続けることには,ある程度の意義は認められるので、これまでに得られた成果を更に深めるとともに、中課題1から将来供給される改変ペプチドについて、それぞれの作用機構を検討し、投与ペプチドの影響解明等、基礎的なデータの蓄積に専念すべきである。
ただし、中間評価の時点で、研究成果の公表がこれまで全くなされていないのは、極めて大きな問題であり、研究成果を積極的に発表することが、研究継続の最低条件である。