生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2003年度 中間評価結果

タンパク質工場としての糸状菌の高度利用に関する基盤的研究

評価結果概要

(1)全体評価

麹菌を代表とする糸状菌は、固体培養で様々な酵素生産に利用されている。本研究は、効率的酵素生産制御系を分子生物学的に解析し、タンパク質を培地中に高効率生産するスーパー麹菌の創成を目的としている。本研究でのタンパク質を培地中に効率的に生産する分泌経路の解明は、菌類の固有な問題を理解する上で、国際的にもリードする高い水準のものであり、菌類が示す固体培養と液体培養の発現系の網羅的な解析の試みも高く評価される。わが国の真核微生物の研究の拠点として更なる発展が期待される。
一方、本研究の目的とするタンパク質生産の場としての麹菌の利用に向けては、培養条件で多くの遺伝子の発現が変化し、細胞内の様々な成分も変化している中で、基盤的研究の解析から、高分泌をもたらす要因を選択するためには、克服すべき課題が多く残されている。今後、2つの機関間の連携を密にして、もう一度戦略を十分練った上で本来の目的に沿った絞り込みをする必要があるように思われる。

(2)中課題別評価

1「糸状菌の細胞内構造および細胞表層構造の改変による高効率タンパク質生産
システムの構築」
(東京大学大学院農学生命科学研究科 北本 勝ひこ)
麹菌のタンパク質分泌に関わる細胞生物学的研究を詳細に行い、興味深く且つ科学的に高く評価できる成果をあげている。麹菌の遺伝子操作のための系の確立、液胞酵素の分泌の解析、細胞表層の改変のための多数のキチナーゼの同定、Woronin bodyに関する研究など、スーパー麹菌構築に向けての重要な遺伝子工学的成果をあげている。今後、これまでの基礎的なデータを積み重ねることを基本としつつも、具体的な突破口を明確に意識した取り組みが求められる。

2「固体培養環境下でのタンパク質生産制御系の解析と新規生産システムの構築」
((独)酒類総合研究所 秋田 修)
固体培養特異的に発現する遺伝子を、サブトラクション法やcDNAマイクロアレイ解析によって検出して解析している。転写後修飾に関して二次元電気泳動による分泌タンパク質の同定の試みは興味深い結果が得られている。また、固体培養特異的に発現する遺伝子の共通プロモーター領域から共通cis配列を抽出した。固体培養で発現の可能性のある遺伝子として、atfA, atfBの同定に成功した。固体培養時に発現するマンノシダーゼを見いだした。
以上のような成果は評価されるものの、解析の対象となった遺伝子の数、制御機構の解明の精密さなどについては、不十分な感は否めない。不必要な検索をできる限り止め、もう一度戦略を練った上で、本来の目的に沿った絞り込みをする必要があるように思われる。この戦略の再構築が継続の前提である。