生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2003年度 中間評価結果

肉食性昆虫の共生微生物が産生する殺虫性タンパク質に関する基礎的研究

(近畿大学農学部 松田 一彦)

評価結果概要

本研究はアリジゴクのような肉食性昆虫から殺虫性タンパク質を産生する共生微生物を探索し、殺虫性タンパク質の構造及び作用機構を解明し、作物保護に寄与する有用物質・概念を提供することを目的として実施したものである。
肉食性昆虫の共生微生物と殺虫性タンパク質について多彩な研究を行っており、それぞれ興味ある中間結果を得つつあると思われるが、殺虫性タンパク質の特定過程が順調に進捗していない。
アリジゴクが餌動物体内に殺虫性タンパク質を注入し、死亡させるとともに、この殺虫性タンパク質は体液吸汁を行うアリジゴク自身が生産するのではなく、そ嚢内に共生する微生物由来のものであること、さらに共生微生物が複数種に及び、それぞれ異なる物質を生産し、違った役割を果たしている可能性を示したこれまでの研究成果は生物間相互作用の研究に及ぼすインパクトは大きく、独創性も高い。しかし、そ嚢に存在する細菌の種類の同定が不十分であり、そ嚢内の優占的な菌が何であるか、培地上で培養した菌がその優占種と同じかどうかを確認する必要がある。
このように、色々なテ-マに着手して、新規な現象を見つけ、それを解明している点は評価できる。しかし、共生微生物の同定、殺虫性タンパク質の構造解明などについての研究は遅延している。
それ故、今後は研究対象を絞って、着実な成果を上げるべく努力すべきである。まず、共生菌の種類を解明し、その共生菌の産生する殺虫性タンパク質(GroEL, ALMB-toxin)の遺伝子のクロ-ニングを成功させることが重要と考えられる。その殺虫性タンパク質を発現させ、殺虫作用を評価するとともに、その作用機構、受容体の探索・同定へと進めることが基礎的にも、応用的にも重要と考えられる。