生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2003年度 中間評価結果

微生物による昆虫の生殖操作機構の解明と利用

((独)産業技術総合研究所 深津武馬)

評価結果概要

本研究は、ショウジョウバエ及び内部共生細菌であるスピロプラズマとボルバキアをモデル系として、雄殺しや細胞質不和合などの生殖操作の標的となる、昆虫類に普遍的な分子機構に関与する遺伝子を同定し、それらの遺伝子を改変・操作することによって、宿主昆虫の生殖表現型を自由に操作できる系の確立を目的としている。
これまでに約4500系統のショウジョウバエ変異体を作成し、これらをスクリーニングした結果、約20系統の機能獲得型の雄殺し回避突然変異体を得たが、目指しているスピロプラズマが共生していながら雄殺しが起こらない変異体はまだ得られておらず、スピロプラズマのターゲット遺伝子は未同定である。ただし、「雄殺し」に関与する宿主遺伝子の存在を予測し、このような変異株の取得を目指したのは研究代表者のオリジナルな発想であり、その点は高く評価したい。
これまでの研究過程で、虫体内のスピロプラズマの密度がある閾値を超えたときに雄殺し現象が起こるという「雄殺しの閾値密度仮説」を提出したほか、基本的にはスピロプラズマも宿主の免疫系を逃れ得ないという事実を提示した。さらに、本テーマとは少しはずれるが、アズキゾウムシに多重感染しているボルバキアのうち1系統のゲノムが、アズキゾウムシのX染色体上に水平転位しているという、予想外の大発見を行った。この成果は、基礎研究の成果として高く評価できる。これら三つの成果はいずれも新しい領域に切り込んだもので、今後この成果を踏まえて、一層の研究の進展が期待できる。なお、この水平転移の研究については、別のプロジェクトで行うとの提案は妥当であると考える。
今後は、スピロプラズマが共生していながら雄殺しが起こらない変異体を取るという当初の計画だけでなく、可能なところから成果を上げていくことにも力を注ぎ、ターゲット遺伝子を捕まえる確率を高める工夫も必要であろう。さらには遺伝学的な解析にとどまらず遺伝子産物の同定を含む、生化学的な蛋白レベルの研究も進めるべきであろう。これらの研究を基盤として昆虫の生殖操作技術確立へ向けて、着実に前進することを期待したい。