生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2004年度 中間評価結果

花芽分化誘導における光周性過程から統御過程への新規な遺伝子ネットワークの解明

(東京大学大学院理学系研究科 米田 好文)

評価結果概要

(1)全体評価

光周性花芽誘導は発芽、老化と並んで植物発生学上の3大イベントであり、基礎研究としてももっとも魅力的なものである。基礎研究推進事業としてこの問題の解明を目指す計画を採択し、推進していくことは大きな意義があろう。勿論、花芽誘導は農業上大きな可能性をもつが、性急にこの実用成果を追及するのではなく、基礎研究を主として推進すべきと考える。
本研究グループは国内の精鋭であり、これまでの研究は概ね順調に推移していると思われる。しかし、当然のことながらこの問題は世界の植物生理学者の興味を引きつけており、世界レベルでの競争は激しい。これまでは、シロイヌナズナの花成分子生物学のパラダイムに沿った研究が中心となっているが、残りの期間ではもう少し焦点を絞ったほうが良い面も見受けられる。そうした点で、イネ、アサガオという植物での進展を期待したい。
高いレベルの論文を発表しているが、プロジェクトのサイズから見ると情報の発信は、数的にはやや不十分と言えよう

(2)中課題別評価

中課題A「シロイヌナズナ花芽分化誘導統御遺伝子ネットワークの解明」
(東京大学大学院理学系研究科 米田好文)

本中課題が対象としているPDF2は、研究代表者が見出した因子であり、新規性が高い。これまでの研究進捗状況は必ずしも良くはないが、今後の研究展開により当初の目標の達成が期待できる。研究の進め方にも大きな問題は無いが、一般的に転写因子としてのPDF2に相互作用する因子を探索する方法として、酵母 2-hybrid法のみに依存するのではなく他の方法を併用することが良い。この点、本研究ではPDF2過剰発現体から、early-flowering花成回復変異体を単離、解析する方法が採用されているので、今後の進展を期待したい。
もう少し積極的に論文発表に取り組んで頂きたい。

中課題B「光シグナルによる花芽分化誘導調節の分子機構の解明」
(独立行政法人 農業生物資源研究所 井澤毅)

生育期間や開花誘導に長期間を要するイネを対象としているハンディキャップがあるにも拘わらず研究は着実に進展している。特に、研究開始時に提案がなく、その後、解析対象に加えたEhd1 遺伝子は新規性があり、その経路の同定は高く評価できる成果である。本研究はシロイヌナズナでは解析できない短日性植物の特性をうまく表現できる可能性をふくんでおり、今後の研究の展開、成果を大いに期待したい。
農林業への直接的、間接的貢献は、今後の成果によってかなり期待できる。

中課題C「短日植物アサガオと長日植物シロイヌナズナの光周性花成誘導と概日時計の分子基盤の解明:タンパク質リン酸化の役割に関する研究」 (筑波大学生物科学系 小野道之、溝口剛)
C401のシロイヌナズナでの解析とアサガオ実験系の整備は重要な成果である。この2つがアサガオで融合して、シロイヌナズナでは見られない成果を期待したい。また溝口が見いだしたSVPも興味深い遺伝子である。
しかし、花成に関与すると考えられる一部の遺伝子だけにとらわれすぎると、複雑であろう花成のプロセスを誤って理解してしまう危険性もある。少数の遺伝子の役割を一つ一つ解明してゆくことも重要であるが、現在はまだとらえられていない多くの遺伝子の相互作用等についてどのように整理してゆけるか、新しいストラテジーの構築も是非挑んで頂きたい。
葉菜類の抽台防止やサツマイモやトマトの開花制御など農林業への応用技術については、今後2年間にその有用性が実証できればすばらしい。

中課題D「花芽分化誘導を制御する新規の制御因子と制御階層の解明」
(京都大学大学院理学研究科 阿部光知)

当初計画にあった新規RNA因子の探索が中座したのは残念なことである。FWAの解析は順調に進んでおり、全体としては堅実な方法で証明を行なっている。FWAと相互作用する因子の新規な候補もとれているので、これからの展開に期待したい。
しかし、FWAの解析が花成の解明にどのように貢献できるかが不明であることが気にかかるところであり、FT/FDの解析を進めることも必要ではないか。
本プロジェクトにおける研究に基づく論文発表がない。多額な研究費に見合う情報発信が強く求められる。研究の展開に応じて適切に論文発表されたい。