生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2004年度 中間評価結果

ゲノム情報の活用による生活習慣病予防機能を強化した食品素材の創出

(京都大学大学院農学研究科 吉川正明)

評価結果概要

(1)全体評価

生活習慣病予防機能を強化した食品素材の創出については、研究代表者らのこれまでの高い研究実績を基に、血圧降下作用を有するペプチドRPLKPWを見いだし、このペプチドをダイズに組み込むことに成功しており、着実な成果をあげている。また、このペプチドの作用メカニズムを明らかにした点は、学術的な視点からも興味深い。研究課題名に「生活習慣病」をうたっている点からは、数ある生活習慣病の中で高血圧だけにとらわれるのではなく、そのほかの生理活性、中でも、中間時までの実績を踏まえた達成目標にある生理活性のうち、特に生活習慣病に関係の深い免疫増強、コレステロール低下等の活性を有するペプチドの探索にも重点をおくべきである。高機能化タンパク質蓄積作物の開発についてはこれまで困難であったダイズの形質転換を効率良く、またわが国独自のウィスカー法でも成功させている。植物の小胞体ストレスにおける遺伝子発現の網羅的解析も初めての例であり、学術的には評価できる。所期の目的である、機能性ペプチドの改変とダイズ種子における生産の方向に沿って、着実に成果が上がっている。

(2)中課題別評価

中課題A「食品タンパク質に含まれる生理活性ペプチドの探索と解析並びにそれに基づいた高機能化タンパク質の設計と安全性の確認」
(京都大学大学院農学研究科 吉川正明)

研究代表者らは、血圧降下作用を有するペプチドRPLKPWを見いだし、ダイズにこのペプチドを組み込むことに成功しており、着実な成果をあげている。また、このペプチドの作用メカニズムがAT2レセプターを介し、下流でプロスタグランジンE2およびEP3を介して作用することを明らかにした点は、学術的な視点からも興味深い。そのほか、動物実験において生理活性ペプチドで血圧降下、育毛、記憶増強作用などに可能性のあるものが確認されていることは評価できる。さらに多くの機能性ペプチドを探索しようとしており、今後の発展が期待される。植物の小胞体ストレス応答遺伝子の網羅的解析は例がなく、今後の応用を考える上で貴重な成果が期待されるが、本研究の目的に沿った展望が望まれる。

中課題B「高機能化タンパク質蓄積作物の開発」
(北海道農業研究センター 石本政男)

形質転換困難なダイズで高効率形質転換系を確立させたことは大きな成果である。ただし、目的のタンパク質の蓄積量を高めるいっそうの努力が必要である。Jackと種子貯蔵タンパク欠損変異体の交配により、形質転換可能な変異体を作出する方針で研究が進んでいるが、生理活性ペプチドを含むタンパク質を2%程度蓄積させることが目的なので、貯蔵タンパクが大幅に減少しているものに期待する必要もない。Jackでの成果を元に単独に他の実用品種についても形質転換を試みることも検討したらどうか。また、京大グループの小胞体ストレス関連遺伝子の成果をどう結びつけるかがポイントである。遺伝子組換え植物に対する消費者の理解を得るためにも、生理活性ペプチドのダイズによる安全な生産を実用化されたい。