生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2004年度 中間評価結果

受精卵と核移植卵の相同性:クローン個体作出への応用

(近畿大学農学部 角田幸雄)

評価結果概要

(1)全体評価

クローン個体の作出技術の不完全な面を改善し、正常なクローン個体の作出を目的とした意欲的な研究である。核移植卵の作成、核移植卵の選抜、核移植に適した細胞の選抜技術という3本柱の研究であり、それぞれに独創的な成果が得られ、技術的基盤が固められてきている点は評価できる。この分野では世界的にも先進的といってよいであろう。
しかし、現時点ではクローン個体作出技術の改善の面での成果であって、正常個体作出のための戦略が十分に検討されているとは思えない。
特に卵子内の初期化関連因子に重点を置いた研究が進められ、正常な遺伝子発現が正常個体の作出の理論的根拠になっている。しかし、ミトコンドリア・キメラの問題なども含めて理論的根拠を総合的に検討することが必要であろう。
正常個体作出のためには、初期化因子の解析などに分子生物学の専門家の協力も必要と考えられる。
一方、ES細胞について行われた細胞表面マーカーによる細胞選抜はウシには応用できておらず、2つの研究グループの協力の成果はまだ得られていない。
総じて、これまで、クローン家畜作出における生殖工学の面で国際的にもすぐれた成果を得ているといえる。しかし、理論的な面が弱いので、今後は、この分野の専門家の協力ないし徳永グループの研究方針の見直しによる対応を検討して欲しい。
論文発表については中課題Bにもっと頑張って欲しい。

(2)中課題別評価

中課題A「受精卵と相同な能力を持つ核移植卵の作出、選別に関する基礎的研究」
(近畿大学農学部 角田幸雄)

卵細胞の保存方法、デメコルシンによる染色体除去技術、初期化関連因子の利用等の面で着実に成果が上がっている点は評価して良い。
しかし、いずれも断片的成果であり、クローン個体作出面での総合的成果には、まだ、つながってきていない。
初期化因子を最重点課題とするのは妥当であるが、現在進めているもの以外の因子も含めての検討が必要であろう。
これまで、マウスもしくはブタで得られた成果をウシに応用し、最後にウシで集中的に研究を進める方針は妥当と考えられる。その場合、異常産の原因についての作業仮説を検討し、正常個体作出のための戦略についての理論的整理を行って残りの2年間の研究を進めるようにしてほしい。

中課題B「未分化細胞等の分化・発生能の評価技術の開発」
((独)農業生物資源研究所 徳永智之)

ES細胞ではある程度の成果は得られたが、細胞表面マーカーでの細胞集団の選抜にとどまっており、しかもウシには応用できていない。もっとも重要なマーカー分子につながる成果には至っていない。研究は精力的に行われたとみなせるが、断片的な成果であって研究目的に沿ったものにはなっていない。
ES細胞についての研究が体細胞にどのように貢献できるか、まだはっきりしない。中課題Aでの今後の研究戦略を立てる際に、初期化因子の分子生物学的検討など基礎的な面での協力方法を考える必要がある。