生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2004年度 中間評価結果

生物毒素素材を利用した疾患モデル動物作製とその応用に関する先導的研究

(奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター 河野 憲二)

評価結果概要

(1)全体評価

本研究はチームリーダーの河野らの開発したTRECK(標的細胞ノックアウト)法という独創的な遺伝子導入法を用いて、疾患モデルマウスを作出し応用を図るものである。基礎となるTRECK法はすでに出来上がっているため、本研究ではさらに、その方法の改良、新たな毒素素材の開発が試みられ、一方で疾患モデルマウスがいくつか作出された。
本研究の開始点までの成果が非常に優れていたのに対して、この2年あまりの間に得られてきた成果は着実ではあるが、当初と比べて独創性がやや乏しく、基礎研究よりも応用面での研究展開になりすぎている感がある。TRECK法以外の細胞毒性誘導技術の開発も目途が立っていない。特許申請と関係していることもあるが、課題に直接関連した発表論文が少なく、後半の進展に期待したい。
河野グループがTRECK法の改良、米川グループはマウス作出の技術提供、正木グループは原核細胞のコリシンから新しい毒素素材開発と、当初の構成は妥当であった。しかし、現実には米川グループの位置づけがはっきりしなくなってきている。また、今回の中間発表では研究目標が多岐にわたり焦点がぼけてきている感がある。

(2)中課題別評価

中課題A「毒素レセプターを利用した標的細胞ノックアウト法の開発と応用」
(奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター 河野 憲二)

TRECK法の改良面では、現在の毒素受容体の増殖因子活性の除去とプロテアーゼ抵抗性の付与が主な成果である。しかし、改良型受容体に理論的には利点が期待できるものの、現実には従来型を上回る成果にはつながっていない。作出された糖尿病マウスには有用性が期待できる。
TRECK法を移植再生研究へ発展させる可能性を示し、全体的にはほぼ計画どおりの研究の進行であり、全体的には評価できる進展をみせている。今後は遺伝子ライブラリーを利用したトランスジーンの構築を期待したい。

中課題B「標的細胞ノックアウト法による疾患モデルマウスの作製とその遺伝解析」
(東京都臨床医学総合研究所 米川 博通)

疾患モデルマウスの作出への技術的協力は評価できる。骨粗鬆症モデルについては、まだ評価できる段階ではない。免疫不全(SCID)マウスを用いたSCID-Huシステムを導入する根拠がはっきりしない。C型肝炎ウイルスのモデル作出となっているが、肝炎モデルを目指す場合に、理論的根拠ないし作業仮説を示すことが必要である。TRECK法では完全にヒト肝細胞に置換されるのか、それともキメラの状態になるのか、もしも前者が可能であれば、C型肝炎モデルにとどまらず、肝臓以外の他の組織への応用も含めた新しい研究領域になるかも知れない。基礎研究という観点からの研究計画立案を望みたい。
SCIDマウスを用いて河野グループとは独立して病態モデルを作製する方向に転換したことは、結果的にはグループ全体を活性化する意味があったと考えられる。成果の公表が遅れているが、全体的には評価できる進展をみせている。ただ、無毛トランスジェニック(Tg)マウスやSCIDTgマウスの利用に関する研究は当初計画になく、本研究課題の中での位置づけを検討する必要がある。

中課題C「細胞毒性リボヌクレアーゼを利用した動物細胞機能解析の基礎研究」
(東京大学大学院 農学生命科学研究科 正木 春彦)

tRNAを標的とするコリシンについての特異性やインヒビターについての基礎的研究成果は評価できる。応用面では当初のジフテリア毒素に代わるものという目的には適さない結果となったが、一方でミトコンドリア病、とくに筋・神経疾患モデルの作出という展望が開けたものとみなせる。
基礎研究としての価値はあるが、それを応用研究として発展させる展望がはっきりしてこない。基礎研究としては成果を上げているが、応用研究としてはプロジェクト全体からみると、やや異質のものになってしまっている。今後コリシンの真の有効性の評価には、Tgマウスの作製が基本であり、その意味では他のグループに比較して、研究の進行が遅れており後半の進展を期待したい。