生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2004年度 中間評価結果

動物ウイルスによる宿主細胞の制圧機構の解明

(東京大学医科学研究所 実験動物研究施設 甲斐 知恵子)

評価結果概要

かなりの困難が予想されたマイクロアレイ解析とプロテオーム解析は軌道にのったとみなせる。一方、ウイルスのリバースジェネティックス、細胞系および動物モデルが確立されたことにより、これらの解析技術応用のためのウイルス・細胞・動物の各レベルをつないだ研究体制ができたことは評価できる。モノネガウイルスでこれだけの実験系を確立している研究グループは、国際的にも本研究チームのみである。
全体としての研究の方向性は、現在取り組んでいる内容でよいと考えるが、今後の進め方、特に情報発信できるまでの成果に仕上げる取り組みが重要である。これまでの取り組みの中で評価できる点は、ウイルス感染の病原性の評価に幅広く取り組み、今後の方向性を決める上でいくつかの研究の芽が出ており、また、モービリウイルスのレセプターの1つであるSLAM蛋白を恒常的に発現する293SLAM細胞株の樹立など将来に向けての有用な材料の調製が進んでいることである。一方、これまでの進め方についての問題点としては、マイクロアレイ解析などで問題点の解決に多くの時間を費やしたこと、本来の宿主に近いヒト臍帯血由来のCOBL細胞へのウイルス感染急性期における宿主因子の動的変化を解明する実験で、いくつかの遺伝子が同定されているのに、詳細な機能解明が行われていないことである。今後は解明目的別に研究項目を整理して研究を推進する必要がある。
本研究課題の担当者の努力は評価でき、使用している最新の解析方法が本研究の遺伝子や蛋白の分析に利用できれば、学問的に興味ある結果が出ることも期待できる。しかし、研究課題の内容、規模、発表論文数を総合すると、提案時の期待に比べて物足りなく、全体的に現象の発見で止まっており、そのメカニズムの解析や理論的な説明が試みられていないように思える。