生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2004年度 中間評価結果

イルカ型ソナーをモデルとした次世代魚群探知技術の研究

(独立行政法人水産総合研究センター水産工学研究所 赤松 友成)

評価結果概要

本研究は、イルカの持つ優れた生物ソナーをモデル化して、目標とする魚を素早く的確に認知し判別することのできる、高精度、高機能の次世代魚群探知技術の開発を目的としている。
小課題1「イルカの音響探索行動の計測」に関しては、イルカ体表面に装着可能な超小型の音響データロガーを開発し、ソナー音の直接記録により感覚行動学的知見に関する詳細なデータを収集することに成功した。その結果、事前探索、ソナー音圧の適応制御、パルス間隔の適応制御、対象物へのロックオン運用またはターミナルフェイズなどイルカのソナーの新規な特性を明らかにしたことは評価される。一方、イルカ以外の水棲哺乳類の存在確認や行動生態調査の展開も、副次的な成果だが、高く評価される。
小課題2「任意魚種からの音響散乱モデル」では、イルカの広帯域ソナー音が反射されて戻ってくる散乱波の魚種毎の特性を予測するための理論研究を行った。X線CTによる高精度な断層写真と数値処理により、魚体や鰾(ウキブクロ)など散乱要素の3次元形状のモデル化を行ったこと、鰾表面などに対する任意の周波数の音圧分布を理論的に推定できるようにしたことは前進といえる。しかし、散乱主要素である鰾表面の音場推定は行われたが、魚種毎の散乱振幅の周波数特性の議論までは進んでおらず、魚種判別に関する研究の遅れは否めない。
このように、これまで、イルカの音響的探索行動を野外で初めて観測し、従来の魚群探知機とは大きく異なる広帯域ソナーの開発の可能性が、実証的、理論的に確かめられる等、総合的に見て、得られた新技術、新知見には価値あるものが多い。今後、雑音制御と混信回避方法などを解明すること、また、イルカ型ソナーの優れた機能を実際の魚群探知用ソナーに組み込む場合の利点・不利な点などについても検討する必要がある。また、イルカのソナーの最大の特徴は対象の認知能力、魚種判別能力と思われるので、工学的手法も取り入れ、広帯域の散乱波形の予測についても研究を進める必要がある。これら、小課題1,2を総合して、魚群探知技術に革新をもたらすソナー技術の設計仕様を構築することを期待する。