生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2004年度 中間評価結果

ナノ加工技術を利用した膜タンパク質のナノバイオロジー

(東京大学 生産技術研究所 野地 博行)

評価結果概要

本プロジェクトは3つのグループから構成されているが、連携もよく行われ、同じ目標に向かって、お互いの主体性を発揮しつつ協力しあっている姿勢は評価できる。
F1-ATPaseの1分子機能に関する既往成果をベースに、近年発展が著しいナノ加工技術を有効に取り入れることによって、広く膜タンパク質の研究に新生面を切り開こうとしている。また、これまでの研究成果を高いレベルの国際誌に公表し、また、常にそれに挑戦していることなど、若い集団の意欲を感じ取ることが出来る。
膜タンパク質は、可溶性タンパク質と比べてその機能を保ったままでの研究が難しく、ナノ加工技術を駆使して、この分野に意欲的に挑戦している点は高く評価できる。
1フェムトリットル(fL)の世界最小の反応容器をナノ加工技術によって作り、その中に1個のF1-ATPaseを固定し、外部から磁気ピンセットを用いて強制的に回転子を回転することによってATPの合成効率を検討した成果は、"ナノ加工技術とナノバイオ(1分子計測)との融合"という本プロジェクトの主要テーマの典型的な例となるものであり、高く評価できる。
さらに、F0-ATPaseという膜に埋め込まなければ機能しない分子の研究を通じて、一般の膜タンパク質の1分子機能研究への一歩を踏み出そうとしている。
F1-ATPaseについては、これまでの方針を一層推し進め、更に、F0-ATPaseの回転と酵素機能の研究が1分子レベルで成功することを期待する。
細胞機能の研究にとって、膜タンパク質の研究は必須のものである。医学に直結する重要なテーマも多数含んでいるという意味でも、生物科学・生命科学研究の宝庫である。ナノ加工技術を駆使し、膜タンパク質がもつ研究上の問題点を克服し、生命活動の素過程のメカニズムを活用して応用研究へと発展させて欲しい。また、基礎科学のみならず、生物系特定産業への貢献も視野に入れて今後の展開を期待したい。