生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2005年度 中間評価結果

SPMダイレクトゲノム解析法の開発

(独立行政法人 食品総合研究所 大谷 敏郎)

評価結果概要

(1)全体評価

本プロジェクトは、SPM(走査型プローブ顕微鏡)を用いて、生物の染色体レベルでの高精度の遺伝子検出と、それらのデータを利用した染色体の断片化、および、断片化した染色体遺伝子からの塩基配列読み取りに関わる技術を開発し、新たなゲノム解読法を確立しようとするものである。いわば、ナノバイオテクノロジーと呼ばれる分野の新しい技術の開発研究として、チャレンジングな研究テーマであり、その成果は広く生物資源の活用に利用されうるものであって、大きな期待が寄せられている。研究の内容は、染色体を「見る」「切る」「読む」の3つの行程からなる。研究チームは、工学的なグループと生物学的グループからなり、それらが極めて密接に連携して、共通の問題意識を持ち研究を行ってきている。総合的に見て、研究は順調に進展していると判断され、中間時点では、優れた成果が期待出来る研究と評価される。

(2)中課題別評価

中課題A「走査型プローブ顕微鏡(SPM)による遺伝子のナノ検出と操作」
(独立行政法人 食品総合研究所 大谷 敏郎)

本中課題の中間時での目標として、(1)複数のBACクローンの染色体上へのマッピングの「見る」行程の実現、(2)染色体ナノ断片の断片回収技術の「切る」行程の確立、(3)AFM探針の改良をあげている。具体的には、原子間力顕微鏡(AFM)のナノレベルの操作および光プローブ顕微鏡(SNOM/AFM)の検出感度を飛躍的に向上させると共に、高収率でDNAを回収するための専用AFM探針や高分解の光プローブ探針を開発し、それらを複合化したシステムの開発である。この3つの目標は概ね達成されており、後年度の予定を前倒しで研究を展開している。今後は工学的な改良も必要であろうが、専用AFM探針の前処理、回収時に汚染の発生を押さえる方法の開発等、全体の分析システムのクリーン化を視野に入れた改良が必要であろう。

中課題B「染色体ナノフラグメント解析システムの構築」
(独立行政法人 農業生物資源研究所 山本 公子)

本中課題においては、(1)SNOM/AFMを用いた計測に最適化した染色体調整法とFISH法の確立を目標として、まずカイコの人工飼料での飼育の検討、染色体を長期に保存できる細胞固定法の開発、FISH法の改良に取り組み、いずれも達成している。そして、複数のBACクローンをプローブとして、多色FISH法とダイレクトマッピングによる染色体物理地図の構築を行い、従来の地図に比べて遙かに高精度の物理地図を作成することに成功している。関連して、蛍光データと形状データをあわせて、染色体相対体積とDNA長の関係を推定した。また、(2)染色体ナノ断片からのDNAの抽出法とPCR増幅条件の最適化、およびその塩基配列解読法の開発「読む」ことを目標として、微量のDNAを増幅する技術であるMDA法などにおいて生ずる非特異的増幅を抑制する方法に取り組み、部分的には成功しており、概ね計画を達成していると評価できる。しかし、本課題の焦点は、数コピーの遺伝子を均等に増幅して、それらの塩基配列を読み取ることにあるが、現時点では、回収された染色体からのカイコ遺伝子の読み取りには成功していない。今後は、染色体標本の調整から断片回収に至るまでのシステム全体のクリーン化と、微量DNAを増幅するための方法論的工夫が要求される。