生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2005年度 中間評価結果

新規摂食調節物質グレリンとニュ-ロメジンUの基礎的、応用的研究

(宮崎大学農学部 村上 昇)

評価結果概要

本研究チ-ムにより発見されたホルモン様のペプチドのグレリンとニューロメジンU (NMU)が、それぞれ摂食行動に対して促進、抑制効果を持つことから、1両者の機能を関連させ解析し、2機能発現の基本原理を明らかにし、さらに3摂食行動に対する効果の理解を深めることで、4生物系特定産業への寄与を期待することが本研究課題の基本構想である。
両ペプチドに関して短期間に予想を超える様々な新知見が得られ、その業績については質および量のいずれの面でも驚嘆に値するものである。
本研究課題の主題の一つである機能解析については、きわめて大きな、かつ独創的な成果を挙げているが、機能解析の成果については、論文発表の技術上の制約から、個々の機能が個々の論文に記載され、全体としてはテーマがよくフォーカスされていないような印象も与えるが、グレリンとNMUあるいは新規物質ニューロメジンS(NMS)の機能全体を眺めれば、将来ある種の統一的理解がなされる可能性が強く示唆される。
産業への出口については、現時点で研究は十分に進んでいるとは言えない。しかし、上述のように、グレリンとNMUあるいは新規物質ニューロメジンS(NMS)の機能全体の統一的理解が形成される中で、本プロジェクトに最も適した問題に研究努力を傾注すれば、「摂食、食欲の制御」などの基本問題を「肥満の制御」の問題に読み替えることにより、ヒトの肥満問題に悩む米国に先駆けて、食品産業という生物特定系産業の切り口から、ヒトの健康問題に対しても影響力の大きい情報発信ができる可能性が強い。
それゆえ、今後は両研究グル-プでよく連携をとり、本ペプチドを機能性物質、生理活性物質の観点から捉え、「家畜における飼料」、「ヒトにおける食品」の範疇で、グレリンあるいはNMUの遺伝子発現、あるいは機能発現に効果をもたらす手段がないかを、真剣に検討してもらいたい。このような枠組みで家畜の肥育、ヒトの肥満、伴侶動物の摂食異常などに対処できれば、たとえそれが実証されていなくても、道筋をつけただけで大きな成果といえるであろう。

(2)中課題別評価

中課題A「新規摂食調節ペプチドの生理作用解明と効率的な食肉生産や伴侶動物の過食症、拒食症への応用」
(宮崎大学農学部 村上 昇)

脊椎動物の各綱でグレリンが機能していることが確認され、伴侶動物を含む様々な有用動物で、グレリンそのもの、あるいはその機能が活用できる基盤が確立した。グレリンの新規機能の中で興味を惹くのは、胎子における独特の調節系(成長促進作用、脊髄細胞分裂促進作用など)の存在で、場合によってはこのペプチド機能の起源ではないかと思わせるほどである。それゆえ、このようなプロジェクト出発時点では想定できなかった新知見をベースにして、応用研究は再構築すべきと考えられる。現状での応用研究へのコミットメントは、主として(当初計画に基づく)伴侶動物への臨床適用のための「グレリンの製剤化」と獣医臨床試験のための準備に費やされているが、この臨床試験はかなり実施困難で長期を要することが予想される。
NMUについても食欲抑制機能に加えて、「侵害受容」を強調するような効果が示唆されるような複数の独創的な成果が得られており、単に「肥満抑制」のための伴侶動物への臨床適用という狭い範囲だけでなく、当初の視点にこだわらない応用展開の可能性が開けている。

中課題B「新規摂食調節ペプチドによる生体機能調節機構の解明」
(久留米大学分子生命科学研究所 児島将康)

遺伝子改変動物の作成、種々の動物でのグレリン構造決定、さらにNMUの類縁物質NMSの発見などは大きな成果であり、最短の期間で効率よく研究が進捗している。機能解析のためのノックアウトマウスの作成により、新規機能が発見され、特にMNUの摂食抑制は、レプチンとは独立して作用していることを見出し、大きな関心を呼んでいる。その一つの理由が、ヒトの肥満防止につながる研究としての評価にあることは疑いなく、この点に関しての知的財産の取得には大いに意を用いて欲しい。
グレリンの骨密度増加作用と食餌由来の脂肪酸による修飾、NMUの炎症作用に対する効果などは、全て当初計画に無かった応用展開を想定させる大きな成果である。
グレリンのノックアウトマウスの系統化は、予定より若干遅れ、実際に動物を用いた機能評価試験は今後の課題であるが、これまでの正常動物を用いた様々な知見から類推すれば、機能解析に関して大きな成果が確実に期待でき、ひいては新たな応用展開の可能性が提示されよう。