生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2005年度 中間評価結果

レギュレーター脂質の機能解析と高機能性食品創製への基盤研究

(東京大学大学院農学生命科学研究科 佐藤隆一郎)

評価結果概要

レギュレーター脂質に着目し、レギュレーター脂質がトランスポーターや、転写因子、核内受容体などの機能タンパク質を調節するメカニズムを明らかにし、その結果を基盤に、生活習慣病を予防し健康増進に寄与する高機能食品を創製することを目的としており、応用上、基盤上、十分に魅力ある新しい研究の展開を期待させるものである。
本研究では、その目的のために脂質のモジュレーター分子について、まず基礎的な研究を行っている。いずれの分担課題でもその構造と機能について詳細な研究を行い、それぞれについて優れた成果を出している。いわゆる生態調節機能分子については学術的水準は高く、それぞれの分野に大きく貢献していると言える。
一方、この基礎研究をもとに高機能性の食品を創製することが最終的な目標と設定されているが、これについては、脂質モジュレーターの反応構成要素を主体としたスクリーニングシステムの開発が開始され、食品中の機能成分の検索と物質の同定が進んでいる。機能成分の検索法は今までにない新しいものであり、今後の成果が期待される。今後、相互間の連携を強めることにより、高機能性食品創製の基盤研究に向けてより一層の力を注ぐよう要望したい。

(2)中課題別評価

中課題A「転写因子、核内受容体による脂質代謝制御機構の解明とレギュレーター脂質による調節」
(東京大学大学院農学生命科学研究科 佐藤隆一郎)

生活習慣病の発症に関連する脂質代謝のうち転写因子などについて、その機能を分子・細胞レベルで解析して新知見を得ており、その内容についてはレベルの高いものと判断される。特に、コレステロールなどの脂質代謝において重要な役割を果たしているSREBPの活性化機構を明らかにする過程で脂肪滴形成とSREBP活性化の相関に着目し、脂肪滴表面分子であるペリリピンの強制発現によりSREBP活性化ならびに脂肪滴形成や脂肪細胞分化が起こることを明らかにした点は独創的である。また、基礎研究の進展とともに脂質代謝を改善するための因子を見出すためのスクリーニング系の開発を試みていることは評価できるもので、さらに研究の深化・発展を希望する。

中課題B「脂質トランスポーターの活性調節機構の解明と高機能性食品による調節」
(京都大学大学院農学研究科 植田和光)

生体におけるコレステロールなどの排出に特異な働きをするABCタンパク質を世界に先駆け解明したもので、この部分は高く評価できる。なかでも、ABCA1タンパク質と結合しABCA1タンパク質合成後の半減期を延長させるタンパク質α1-syntrophinを同定した点、ABCA1がapo A-I依存的にコレステロールを排出するのに対してABCG1がアクセプター非依存的にコレステロールを排出することなどを明らかにした点、 HDL形成過程におけるABCA1とABCG1の協調的作用の重要性を明らかにした点は独創的である。今後、ABCトランスポーターの輸送活性を促進あるいは阻害する脂質メディエーターのスクリーニングなど、高機能性食品の創製に向けた基盤形成が望まれる。

中課題C「核内受容体を利用した骨増強食品素材評価系の構築に関する研究」
(東京大学分子細胞生物学研究所 加藤茂明)

骨の形成、骨の吸収に関係する細胞について詳細な研究を行い、ステロイドホルモンの作用機構に関する研究で先端的な研究成果を挙げることに成功し、この点は大いに評価される。すなわち、骨には骨形成に関わる骨芽細胞と骨吸収に関わる破骨細胞が存在するが、破骨細胞に特異的なアンドロゲン受容体欠損マウスを作製することにより、男性ホルモンの骨組織への同化作用は破骨細胞に存在するアンドロゲン受容体を介して骨吸収を抑制する作用によるものであることを初めて明らかにした。今後、この成果を予防・治療に関連づける研究に早急に着手し、高機能性食品あるいは医薬品の開発に成功することを希望する。