生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2005年度 中間評価結果

果樹等における花成制御技術の開発

((独)農業・生物系特定産業技術研究機構 果樹研究所 古藤田信博)

■評価結果概要

(1)全体評価

リンゴにおける再導入系、オウトウの形質転換系の作成を中断するなど中課題の一部を取りやめた程度の変更はあるが、花芽分化に関与すると考えられる遺伝子を単離し、それらを細胞に導入し、不定芽分化を誘導し、導入遺伝子の発現・活性を調べるという一連のプロセスについては、ほぼ初期の計画に沿って一定の成果は得ている。
しかし、本課題実施の意義については、かなり具体的に記述されてはいるものの、その達成に近づくための具体的方法については明確ではなく、研究計画の達成目標はやや抽象的に述べられているきらいがあり、目標そのものも余り高いとは言えない。本課題では実際の品種改良の促進等に具体的に役立つ基盤技術研究が求められている。
今後は、重点をもう少し基礎的研究から実際的(産業的)研究にシフトする方向での見直しが望まれる。今後の2年間で、どの程度実質的に寄与するための基礎を築けるかが問われる。

(2)中課題別評価

中課題A「果樹における世代促進技術及び遺伝子機能解析系の開発」
((独)農業・生物系特定産業技術研究機構 果樹研究所 古藤田信博)

本課題は、シロイヌナズナで解明されている知識と技術を果樹に応用し、(1)遺伝子組換えにより花成制御遺伝子の発現を制御することによる世代促進技術の開発と(2)早期開花系統を用いた果実の特性に関与する有用遺伝子の機能解析手法の確立との2つの小課題によって構成されているが、部分的な変更はあるが両小課題ともほぼ計画通りに進んでいる。
早期開花個体を利用した育種期間の短縮化やリンゴ、カンキツなどの果実の育種効率の高度化に利用できる可能性があるなど果樹産業への貢献も期待できる。この研究課題は、遺伝子の単離と構造解析、形質転換体の作成など大変労力を要する研究内容であり、加えて早期開花系統を用いたとしても解析までには長い時間を要する課題であるが、今後は中間評価以前に作成された形質転換個体の解析が研究後期に進められると予想されるため、その成果が期待される。
ただ、この技術を利用して、将来的にどういう面で育種に実質的に貢献できるかという明確な展望がなかったのは、今後に残された問題点である。

中課題B「セイヨウナシ・オウトウにおける生殖器官発現性遺伝子の解析」
(山形県農業総合研究センター 高品善)

本中課題についても、オウトウの形質転換体作成を中断するなど当初計画の一部を変更しているが、おおむね順調に研究が進められている。研究成果については、特に高水準であるとは言えないが、信頼性が高く、おおむね高い科学的価値を有すると思われる。中課題Aと同様に、早期開花系統が成熟・軟化等に関わる遺伝子の機能解析に有効であることが示されれば、セイヨウナシの育種技術の向上に貢献できることが期待される。今後、中間評価以前に作成した形質転換個体を用いて目的とする遺伝子の機能解析が進められ、期待通りの研究成果が得られると思われる。

中課題C「遺伝子組換え技術を利用したポプラの花成制御技術の開発」
((独)森林総合研究所 伊ヶ崎知弘)

分類学上の位置付けが果樹とは大きく異なるポプラを対象とした研究であるため、果樹で単離された遺伝子を直接利用できないなど研究を進める上での障壁があったにもかかわらず、ほぼ当初計画に沿って進捗している。ポプラから花成制御に関連する遺伝子群を網羅的に単離したこと、シロイヌナズナの形質転換系を用いて遺伝子機能を確認した後、ポプラに導入して早期開花系統を得ているなどの成果が得られている。しかしながら、前述したようにポプラは林木であり、果実を利用しないこと、早期開花系統で成長低下や形態異常が認められるなど新たに解決を要する問題点も浮上している。
今後は、何を実際的な研究目標とするのか、それは無花粉樹の作出なのか等を明確にして、単なるゲノム研究の拡大には終わらせないで頂きたい。