生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 中間評価結果

SuperSAGE法を利用したイネ・いもち病菌相互作用の解析

(岩手生物工学研究センター 寺内 良平)

評価結果概要

本課題はイネいもち病の抵抗性(不親和性)および罹病性(親和性)の組み合わせを選んで、いもち病菌胞子の付着器が着生したイネの表皮細胞の領域において、増幅あるいは抑制されているイネといもち病菌それぞれの遺伝子を検出し、抵抗性および罹病性の遺伝的実態を明らかにしようとするものである。
このような解析は、イネゲノムといもち病菌ゲノムの双方が解読され、Super SAGE法という、従来のSAGE法に比べて格段に識別能力の高い遺伝子解析方法が開発されて初めて可能になった。すなわち、本研究課題は独自に開発されたSuper-SAGE法が、生物間相互作用の場における発現遺伝子の同定、発現量の精密な解析に適用できることを実証する意味で、科学的に大いに期待できる。また、その解析の場として農業の実場面でも重要なイネ−いもち病菌の相互作用を選択したことは、両者のゲノム解析もほぼ終了し、その情報も活用できる科学的背景に加えて、得られた解析結果がイネ育種のターゲットとしても、農業用殺菌剤のターゲットとしても、直接活用できる可能性を秘めており、優れた成果を上げられることが期待される。
今までの成果からも、Super-SAGE法はゲノム情報が完全に揃っていなくても、相互作用の場において発現している遺伝子の同定、発現量解析に適用できると考えられる。むしろ、特定された遺伝子が必ずしも機能既知なものでないことが多いと予想され、その機能解析に多くの労力ならびに時間さかねばならないだろう。現時点では植物、糸状菌における未知遺伝子の機能解析手法にはRNAiや相同組換えによる遺伝子破壊、逆の遺伝子増幅、他家発現等、適用手法はあるにはあるものの、試行錯誤の必要があり、広く国内外との共同研究が望まれる。その意味でも、変異ラインを揃えるTILLING法の確立も望まれ、広く成果が公表され、変異ラインが利用できる体制が望まれる。
しかし、この研究は、植物の遺伝子研究に関する世界をリードするような新たな実験技術を開発し、その実効性を検討しているのが目的のように思われるところもあり、当初計画を途中から変更するものや、予定通りに進んでいないものなども見られ、多少その進捗状況が気にかかる内容もある。あくまでも補助金の対象はイネのいもち病の耐病性品種の作出であり、そのための、イネといもち病菌との相互作用時に発現する遺伝子の解析であることを念頭に置く必要があるのではないかと思う。まだ、時間的にも、人的にも余裕があるように思われるので、供試するイネ品種やいもち病菌のレースの選択にも十分な配慮をして再検討することも必要ではないかと思う。いもち病菌の変異に関する研究では、例えば研53-55など50年以上も前に分離され長期保存されている菌株を使用しており、材料としてふさわしいか疑問もある。
また、研究グループには、いもち病そのもののエキスパートが含まれていないように見受けられるので、このような大規模な研究を誤りなく進めるためには、分子生物学者だけでなく、研究対象であるいもち病の専門家をグループに加える必要があると思われる。
新たな技術の開発はしばしば大きな成果をもたらすことから、研究代表者らの開発した新技術により植物や糸状菌などの発現遺伝子や発現遺伝子機能の解析が飛躍的に進み科学的に価値も高い成果が得られることを期待したい。