生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 中間評価結果

イネの逆遺伝学及び逆エピ遺伝学的技法開発と機能解析

(大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 基礎生物学研究所 飯田 滋)

評価結果概要

(1)全体評価

本研究は、我が国において重要で、且つ、ゲノム解析が進んだイネを材料として、その遺伝子解析の技術のひとつとして、あらたな変異体作成法としての、DNAメチル化関連遺伝子を対象としての遺伝子ターゲティング、および、イネの内在トランスポゾンを用いた遺伝子タギング手法の確立を目指し、そこでえられた有用なあるいは興味深い変異株を対象として取り上げ、有用遺伝子の機能解析をしようとするものである。
ターゲティングについては、本課題の開始時には一つの遺伝子での成功例しかなかったが、本課題の遂行により新たに9種類の遺伝子について成功例を示したことは、本手法が遺伝子一般に利用できることを示す成果として評価される。
植物では最近、生殖性質に関わる多くの重要な遺伝子がDNAメチル化で制御されることが明らかになっている。イネのゲノム中にDNAのメチル化で制御されている遺伝子がどの程度存在し、どのくらい重要な形質に関わっているかは未解明であるが、これを明らかにし、活用するための研究材料が整いつつあると評価できる。
また、nDartを用いた変異体の作出についても、目標とした3000を達成し、それらの中から興味深い変異体を見いだし、その原因遺伝子を同定し、あるいはトランスポゾンの挿入位置の効果などについて、新しい知見を得ている。
しかしその中にあって、代表者のいう逆エピ遺伝学が現在の手法の延長上で今後一定の広がりを示しうるかは、現時点での成果からは未知数ではある。すなわち、このターゲティング技術の確立は評価できるとしても、それが有用な変異体作出技術につながるかどうかは、今後の成果を見なければ判断出来ない。その意味で中間時目標の達成度はかなり大きいとは思われるが、最終的な目標の達成度、あるいは、その意義については若干評価を押さえざるを得ない。

(2)中課題別評価

中課題A「遺伝子ターゲティングとタギングによるイネゲノムの機能解析」
(基礎生物学研究所 飯田 滋)

相同組換え技術を用いてのDNAメチル化に関わる遺伝子のターゲティング破壊については、当初目的のノックアウトからノックインに目標を拡張し、既に幾つかの遺伝子についてはT1,T2のホモ個体などを取得している。その意味では中間時目標を達成したと言える。本ターゲティング法は、手法としての完成に近いものと判断されるが、技術的には煩雑で、選抜法などについても改良の余地はあるように思う。
これまでの変異体からは、明らかにDNAメチル化レベルの変化が変異につながったと思われる変異体は取得出来ていないようである。また、幾つかの変異体はソマクローナルな変異体である可能性もあり、今後、慎重な検討が必要であろう。ターゲティングによる遺伝子機能解析については、対象とする一部の遺伝子については別のグループが別の方法でノックアウトを得て解析を進めており、あえてターゲティングでこれらの遺伝子の解析を行うことに疑問を感じる。
一方、岡山大学資源生物科学研究所と協力してすすめている遺伝子タギングによる遺伝子機能の解析については順調に伸展し、あらたなトランスポゾンnArdtの発見など、重要な成果を得ている。

中課題B「イネのトランスポゾン挿入変異系統の効率的作出と機能解析」
(岡山大学資源生物科学研究所 前川 雅彦)

タギング法開発に用いている内在性トランスポゾンnDartは活性化に培養を必要としないので、培養に起因するバックグランド変異が生じないという大きな特徴がある。トランスポゾンの制御機構、挿入部位の得意正当の解析や3000の変異系統群の作出、などについても中間評価時の目標を達成しており、また、この方法を用いて有用遺伝子も単離されており、今後のさらなる展開が期待される。nDartメチル化による事を示唆する結果が得られている。これは予想されたことではあるが、今後の研究を進める上で重要と考えられる。また、トランスポゾンnArdtを新たに同定し、自律性因子をマップしたことも重要な成果と考えられる。今後、これらの変異体をどう利用していくか、それは生物系特定産業への貢献という観点からも、検討の余地がある。