生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 中間評価結果

酵母の発酵環境ストレス適応機構の解明と新規な発酵生産系開発への基盤研究

(奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 高木 博史)

評価結果概要

(1)全体評価

本研究は、酵母の異常タンパク質生成回避・検知処理機構を解明し、各機構の高機能化と高度利用により新規発酵生産系を開発することを目的としている。中間評価時点までの進捗は概ね当初計画通りであり、特に、プロリン高度蓄積酵母株におけるストレス耐性化の詳細、プロリン高蓄積のための遺伝子-酵素の様態を解明し、プロリン蓄積清酒酵母の作製を実現したことは、高く評価される。また、異常タンパク質のユビキチン化やプロリンアナログ解毒酵素などの成果は注目される。その他、パン酵母について、遺伝子破壊株の示す感受性と網羅的遺伝子発現情報を調べ、それぞれに特定の細胞機能が重要なことを明らかにした。清酒酵母では、清酒もろみ中の酵母が発現している遺伝子を検出する解析手法を確立し、仕込みの各ステップにおける遺伝子発現プロファイルを明らかにした。これらの成果は学問的価値が非常に高く、生物系特定産業への寄与の点からも高く評価できる。研究成果に関して積極的に情報を発信しており、また成果情報をデータベース化して公開し始めていることも評価できる。特許は2件出願されており、知的財産権取得の点からも優れている。研究代表者の指導力は十分に発揮されており、中課題間の連携もよい。最終的に優れた成果が期待できる研究である。

(2)中課題別評価

中課題A「異常タンパク質生成を伴うストレスに対する酵母の適応機構の解明
(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 高木 博史)

プロリン高蓄積酵母株におけるプロリンの細胞内分布とストレス耐性の関係、およびプロリンを高度に蓄積するための遺伝子-酵素の様態を解明し、それに基づいてプロリン蓄積清酒酵母の作製を実現した。また、異常タンパク質のユビキチン化が各種ストレス耐性化に必要なことを示し、この系に関与する各種因子を明らかにするとともに、ユビキチン化酵素系の組合せとストレス耐性の関係を明らかにした。このように当初の目標を着実に達成している。さらに、プロリンアナログ解毒酵素を高度に発現すると冷凍やエタノールに耐性化することを見出し、本酵素の高機能変異体の作製と酵素結晶化に成功した。これらは科学的価値が高く、また発酵醸造産業などへの寄与の点から高く評価される。研究成果は積極的に情報発信しており、特許も2件出願しており、知的財産権取得の点からも評価される。

中課題B「パン酵母におけるストレス耐性の網羅的解析と新機能開発」
((独)農研機構 食品総合研究所 島 純)

パン酵母がパン生産過程で負荷される各種環境ストレス下において、遺伝子破壊株セットを用いて各株の示す感受性およびDNAマイクロアレイ解析による遺伝子発現情報について網羅的に調べることが、当初の計画通りに進められた。高ショ糖濃度下では高浸透圧耐性応答系やATP生成に寄与するプリン合成系の重要性、冷凍下では液胞や細胞壁が正常であることの重要性、乾燥下では液胞・ミトコンドリアの機能が重要なことを明らかにした。さらに、ストレス耐性パン酵母の作製に向けて、実用パン酵母で負の要因となる遺伝子をPCRのみで破壊することができた。これらの科学的価値は高い。研究成果の情報発信に関しては、原著論文や口頭発表を積極的に行っており、また成果情報をデータベース化して公開し始めたことは、その積極性が高く評価される。

中課題C「清酒もろみにおける酵母の遺伝発現ネットワーク解析とその応用」
((独)酒類総合研究所 下飯 仁)

20日以上に及ぶ清酒もろみの中で酵母がどのように増殖・機能しているかを明らかにする目的で、三段小仕込における各サンプルから、発現している遺伝子を検出する解析手法を確立し、仕込みの各ステップにおける遺伝子発現プロファイルを、当初の計画通り解析することができた。各データ間の相関係数から、遺伝子発現は徐々に変化していて仕込み始めと終了近くで大きく変わることを明らかにした。解糖系遺伝子、細胞増殖関連遺伝子、ビオチン合成遺伝子、ストレス応答遺伝子について、詳細な変化パターンを明らかにした。清酵母と実験室酵母の比較から、清酵母は実験室酵母よりエタノールに感受性だが、予めエタノールに曝すことによって耐性が向上するなど、高濃度エタノールに耐性名清酵母の特徴を明らかにした。これらの成果の科学的価値は非常に高い。研究成果は積極的に情報を発信していると認められる。