生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 中間評価結果

昆虫が有する病原体認識システムの解明とその利用

(東北大学 倉田 祥一朗)

評価結果概要

本研究は昆虫における自然免疫の解明に大きく貢献し、病原体の認識から、その情報の伝達様式、増幅様式、アウトプットとしての反応系、異物病原体排除の機構に至るすべての過程において、そこに絡む新規な分子の探索とその機能解析が着実に進められておりScience として魅力のある研究となっている。とくに病原体認識タンパク質の研究では、病原体との結合の仕方、体液中と細胞中での異なった結合様式、シグナル活性化におけるペプチドグリカン(PGRP)のシグナル活性化に必要な領域が明らかにされてきた。さらにPGRP-LEの細胞質内での機能、受容体型グアニルサイクラーゼの関与などを新たに見出すなど、目標以上の成果を挙げている。一方、昆虫の感染制御系を抑制したり促進したりする化合物の探索では、多くの物質が同定され、より活性の強い分子の合成にも成功している。これらの分子が感染を受けた昆虫を特異的に駆除する手段の開発が可能であり、今後の応用に関して大いに期待できるものと思われる。
全体として、昆虫の病原体認識システムに関しては、結果としての微生物、真菌、線虫等の殺滅および排除、血球による貧食は認識物質の放出などの細胞性防御機構などの知見が急速に蓄積されている。これら防御応答のシグナル伝達系に関する研究は脊椎動物の自然免疫機構の研究をリードしている。しかし、昆虫をはじめとする節足動物の自然免疫の機構はまだ十分に解明されていない部分もあり、まだまだ解明すべき点も多い。さらに研究課題の生物学的なおもしろさに加えて、それを基盤とした応用技術の確かさ奥深さにおいて、最も相応しいと思わせる説得力を持った研究である。これまでゲノムワイドのスクリーニングやほとんど無限な化合物のスクリーニングなどかなり泥臭いルーチン化した仕事も着実に進め、今後に繋がる分子等を発見しており、その一つ一つを大事に掘り下げる研究手法も好ましい。防御系を制御する物質に関しては、今後解決しなければならない問題は多く存在するのが、新しい発想の研究であり、農業および畜産分野における害虫対策の困難さを考慮した場合、本研究の総合的な評価は高いと判断される。以上のように課題内での研究項目の設定もバランスよく適当であり、目標とする開発技術が具体的で現実性が高いことを思わせる所に既に達している。計画推進上の問題は全くなく、計画達成の可能性は大きいと判断する。