生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 中間評価結果

セスバニア-Azorhizobium caulinodans 系を用いた根粒成熟分子メカニズムの解明

(東京大学 小柳津 広志)

評価結果概要

本研究はマメ科植物以外の作物に窒素固定能を付与することを最終目的として、マメ科植物が進化の過程で獲得してきた根粒形成に関わる遺伝子とその機能の解明を目指すもの。根粒菌の感染を中心とした根粒形成の初期過程については多くの研究グループによって解明が進められているが、根粒の成熟過程に関する検討は少ない。そのため、本研究では根粒を茎にも形成し、根粒の成熟が5日程度と著しく早いセスバニアを材料に用いて、根粒形成の中期から後期成熟過程に焦点を絞り、その分子メカニズムを解明し、非マメ科植物への窒素固定能力付与の基盤をつくることを目標とした。本研究では、菌についてはセスバニア根粒菌(Azorhizobium caulinodans)を、植物についてはミヤコグサを用いて、根粒菌とマメ科植物の根粒成熟過程の一般的な分子メカニズムの解明を試みるという野心的な戦略を採用している。
これまで、セスバニア根粒菌から、根粒(実際には茎粒)成熟に関わる遺伝子を大規模スクリーニングにより十数種探し出した。この大規模スクリーニングのため、セスバニア根粒菌の全ゲノム塩基配列を決定し、これによりセスバニア根粒菌の系統樹も作成した。一方、植物側に関しては、ミヤコグサを対象として、栄養条件を改善した大規模スクリーニングにより、十数種の根粒成熟変異系統を得て、新規遺伝子を見出した。
当初の研究計画の変更はかなり大きいが、修正後の展開はほぼ予定どおりと判断される。ただ、これまでのところ応用への展開が見られず、根粒成熟過程の遺伝子解析とそのメカニズムの概略を把握することに終始している感がある。根粒の成熟に関わるセスバニア根粒菌やミヤコグサ変異株の新規遺伝子の発見や巨大外膜タンパク質の特定、セスバニア根粒菌のゲノム解析や根粒菌の系統進化の解析など、個々の内容については見るべきものが多いが、これらの成果から目標への展開が遅れていると思われる。今後、候補として見出した変異株に含まれる遺伝子が真に根粒成熟に関与するシグナル伝達遺伝子か否かという証明を急ぐ必要がある。更に、根粒や茎粒の表現型についての形態的観察や系統進化や感染過程の比較など、生物学的検討が不十分と思われるので、得られた成果を実用研究につなぐためにも、これらの基本的課題をさらに検討するのが望ましい。
菌と植物の双方について、根粒成熟に関わる遺伝子が絞られてきているが、今後2年間で、これら全ての遺伝子機能の解明を行うことは困難なので、実施可能な機能解析手法も含めて、重要な遺伝子は何かなど早めに特定し、さらに絞り込んだ遺伝子機能解析に集中することが必要と思われる。更に、最終目標への端緒を見出すためには、実用上意義のあるイネ化植物か、系統的にマメ化植物に近い材料を用いて遺伝子導入を試みるのもひとつの方法と思われる。論文発表もまだ不十分であり、論文投稿や学会発表を心がけてほしい。