生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 中間評価結果

相同組換え開始酵素Spo11による新世代ゲノム加工技術

(独立行政法人 理化学研究所 柴田 武彦)

評価結果概要

(1)全体評価

本課題は、イネと昆虫を用いて、狙った標的遺伝子でパーセントレベルの高頻度相同組換えを誘導してゲノムを加工する技術の開発である。そのために、真核生物が普遍的に持つ減数分裂期の相同組換えを活用する。その方法としては、DNA結合領域と、減数分裂時に二本鎖DNAを切断する酵素Spo11を融合させた遺伝子を導入し、それにより、DNA結合部位での相同組換えを誘導することとした。まず、酵母の系での相補試験で、イネに複数あるSpo11候補遺伝子の同定及び機能の解明を行ったが確認できなかった。そのため、アラビトプシス及びイネを用いてSpo11遺伝子の解明を進めこととした。このため本研究は当初予定より遅れている。しかし、その他、最終的にイネSpo11遺伝子を用いてイネの形質転換を行い相同組換えの効率を判定する系、あるいはDNA結合領域への高結合性を有する蛋白質の改変、Spo11の生化学的解析、酵母での相同組換えにかかわる遺伝子群の解析など、周辺の研究は予定どおり進捗している。これまでに得られた種々の成果は、それぞれ科学的価値は高いものであり、研究グループの努力は高く評価され、その成果は一定レベルのものであると評価できる。本研究の目指す標的相同組換えを使った技術が完成すれば、安全性を維持しつつ、有用品種の従来的交配とは比較出来ない技術となる。

(2)中課題別評価

中課題A「組換え開始酵素Spo11による標的相同組換え活性化法の確立」
(独立行政法人 理化学研究所 柴田 武彦)

本課題は、イネで、組換えDNA技術を用いることなく、伝統的である生物固有の相同組換え機構を利用して、ゲノム中の任意の標的遺伝子をピンポイントで効率よく迅速に改変するゲノム加工技術を開発することにある。このプロジェクト全体の中心となる中課題である。この研究で、イネのSpo11遺伝子を同定するまで進んでいないことは、目標達成度からやや遅れたものとなっている。しかし、それ以外の、酵母の系での減数分裂機構にかかわる蛋白質群の解析、本研究に必要なプロモーターの研究、また相同組換えの検出系の確率など、得られている成果はいずれも科学的価値が高い。さらにSpo11の生化学的解析を進めたことは大きな成果といえる。学術的には筋道が通った研究を展開しており、今後計画どおりの成果が期待できる。

中課題B「組換え開始酵素Spo11によるイネの相同組換え制御」
(東京農業大学遺伝育種学研究室 若狭 暁)

本課題は、相同組換えを任意の場所で活性化させる酵素Spo11により、イネの減数分裂期における相同遺伝子組換えを促進して目的遺伝子を効率よく変換させる方法を、イネにおいてその事象を証明することにある。これまで、中課題Aとの関連で、イネのSpo11遺伝子の同定が遅れているため、成果という意味では、具体的に多くのものが出ているわけではない。しかし、その中でイネを用いた系を直接に準備し、ゲノムレベルでのイネへの導入システムを立ち上げていることは評価できる。本研究は生物系特定産業への貢献という点では最前線にするグループであり、その任務は重いが大きな成果を期待したい。

中課題C「組換え標的遺伝子特異的に結合する蛋白質ドメインの開発」
(早稲田大学理工学術院 胡桃坂 仁志)

本課題は、Spo11をイネ染色体の特定の領域に誘導し、その領域での相同組換え頻度を上昇させる技術の開発である。これまで、イネの相同組換えのモデル系として提案しているイネイモチ病R遺伝子に着目し、その遺伝子に結合するDNA結合ドメインとしてのWRKY蛋白質の改変に成功し、予定どおりの成果を上げている。これらの成果は、相同組換え標的遺伝子である相同組換え効率の向上という全体のプロジェクト目標の達成に貢献することになろう。

中課題D「昆虫での、Spo11誘導による高効率な標的相同組換え法の確立
(九州工業大学大学院生命体工学研究科 草野 好司)

本課題は、昆虫としてショウジョウバエを用いて、特定の標的遺伝子を切断することによって、相同組換えにより新しい配列を高頻度に導入できる系を開発することにある。この技術によって特定遺伝子配列を加工できれば、医薬や食料としての有用蛋白質を生産する形質転換昆虫の作製を可能にする。これまで、ショウジョウバエに導入したSpo11遺伝子が卵巣において減数分裂で機能することを細胞生物学的手法で明らかにした。これは科学的価値として高く評価できる。ここでの成果がイネに結びつけられるか、他のグループとの連携を一層密にした研究の進展を期待したい。