生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 中間評価結果

昆虫免疫応答改変によるアンチ・インセクトベクターの開発

(帯広畜産大学 嘉糠 洋陸)

評価結果概要

遺伝学的な研究成果の蓄積されたショウジョウバエを病原体媒介昆虫における免疫応答を解析するためのモデル昆虫として用いた本研究は、研究代表者自身が開発した異所発現トラップ法を用いることにより、ショウジョウバエの表現型をもとに機能的に遺伝子をスクリーニング出来る点で、独創的である。さらにその手法は表現型を用いたハイスループットなスクリーニングを可能としている点で他に類を見ない。
研究代表者はこれらの特性を存分に生かして、マラリア原虫のみならず、その他の寄生虫、最近、ウイルス等の病原体を用いて「アンチ・インセクトベクター」作成のターゲット分子をすでに何種か同定している。このように、分類学的に幅の広い各種の病原体を用いることにより、各種病原体特異的ターゲット分子の同定のみならず、これらの病原体に共通する感染抵抗性分子の同定も可能となり、より普遍的な「アンチ・インセクトベクター」の開発につながる候補分子の同定が可能である点においても、ユニークな研究課題であると評価される。
勿論、本来の媒介昆虫を用いて研究が実施できればそれに越したことはないが、現状では非常に困難である。そこで、ショウジョウバエで候補分子を同定してから、本来の媒介昆虫に戻ってゆく申請者のアプローチのほうが、現実的かつ効率的であると思われる。申請者は平成18年度途中において、既にマラリア原虫、サルモネラ菌、リステリア菌、黄色ブドウ球菌、フロックハウスウイルスを用いて、ショウジョウバエの異所発現トラップ2000~5000系統に対するスクリーニングを終了し、マラリアおよびサルモネラに対する感染抵抗性を付与しているfurrowedと呼ばれるターゲット分子の同定、及びショウジョウバエにおけるfurrowedの、機能、並びにマラリア媒介蚊であるガンビアハマダラカにおけるホモログの同定、そのハマダラカにおける機能の解析まで既に終了しており、研究の進捗状況は当初の予定を上回っている。
現在、遺伝子組換えハマダラカの作成技法は一般に確立されているため、これらの研究成果は、今後に予定されている「アンチ・インセクトベクター」作成の達成の可能性を強く示唆している。また本研究成果は、ベクター・病原体相互作用の普遍的解析を深め、今までに知られていない病原体増殖抑制に関わる自然免疫分子が多数発見されることが期待され非常に興味深い。