生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2006年度 中間評価結果

シロアリの卵運搬本能を利用した駆除技術の開発

(岡山大学 松浦 健二)

評価結果概要

この研究は研究代表者自身によるシロアリの生態や菌核菌との共生現象の観察・発見から始まっており、アイデアや研究手法にも独自のものが多い。単に生態学的研究にとどまらず、遺伝子解析や生化学的分析などを巧みに取りこみ、菌類学的な検討にもかなりの勢力を割くなど幅の広い展開が見られる。
当初最大目標としていた卵認識物質の単離同定に多少手間取ったが、質量分析によってこれが殺菌効果を持つタンパク質の一種であることを突き止めた。
この成果はシロアリのグルーミング行動によって卵認識物質が果たす生態的な役割が明確になり、かなり普遍的な現象であることが確認されたというだけでなく、防除技術開発の要になる点であり、高く評価される。
シロアリの遺伝子系統関係を解析して卵認識物質の種間交差活性を検討し、複数の幅広い種がこの物質に反応することを確認しており、ヤマトシロアリ属の種だけでなく他のシロアリにも適応できる可能性を示唆している。
菌核菌について、菌核の表面構造や大きさなどと擬態行動の関係や卵認識物質の基質についても検討された。ただ、シロアリの排泄物から卵認識物質が生産され、また、遺伝子解析からこの菌が落葉分解性の担子菌類の一種であるとしているが、菌類がタンパク質を細胞外に生産することは稀であり、また、完全世代や自然状態での生態などが不明なため、これらの点についてはさらに検討を重ねたほうがよい。
このほか、野外コロニーでの卵生産の季節変動やそこへの疑似卵導入が高効率で行われることが明らかになり、ガラスビーズをポリスチレンビーズに変えて好成績が得られた。
殺虫活性物質の選択やその使い方についても検討を始めており、今後は実用的な開発研究も進展すると思われる。
この研究課題は得られた基礎研究の成果を防除技術の開発という応用問題に展開しようとする意欲的なもので、きわめて独創性に富んだ内容であるといえる。さらに、応用問題を解こうとする中で、新たな基礎研究課題に挑戦するなど、研究展開の面からも若手型研究の好例といえるであろう。