生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2007年度 中間評価結果

イネ胚乳細胞のオルガネラ工学の開発と利用

(独)農業生物資源研究所 川越 靖)

評価結果概要

本研究は、胚乳に貯蔵されるデンプンやタンパク質などを、その"入れ物"である胚乳オルガネラの形態や機能を改変することによって、アミロプラストで合成されるデンプン粒の形状、デンプンの質と量、また貯蔵タンパク質のタンパク顆粒への輸送・集積を変化させ、米粉用途の拡大につなげることを目指している。
また、成分の研究は一般に化学分析によるのが定法であるが、本研究では蛍光反応を利用して直接的に物質の局在性などを明らかにしようとして一定の成果を挙げている。
種子内のデンプンはアミロプラスト、タンパク質はタンパク質顆粒、脂質はスフェロソームとそれぞれ特異的な細胞内オルガネラに貯蔵される。デンプンや貯蔵タンパク質の改変に関しては、既往の多くの研究はその合成に直接関わる構造遺伝子、いわゆるソース側の遺伝子に力点が置かれ、入れ物(シンク)側についてはあまり研究が行われてこなかった。
これまでアミロプラスト及びタンパク質顆粒の分裂と生成の分子機構の解析については概ね計画通りに進めており、特に、計画通りコンストラクトの作製と形質転換体の作製に成功し、それらを利用して可視化システムを完成し、野生型及び形質転換体の解析からアミロプラストには葉緑体とは異なる分裂制御系が働く可能性を指摘したこと、タンパク質顆粒形成機構では細胞内器官の分別可視化システムを完成したことは高く評価できる。
また、アミロプラストと貯蔵液胞の両方に影響するシステムが存在することの指摘は、物質集積機構の効率化に繋がることも期待できる。これらを用いることによって、細胞内オルガネラの起源や分裂・形成制御システムの分子機構の解明が進むことが期待できる。さらに、葉緑体とアミロプラストは起源を同じくする細胞内器官であり、葉緑体もデンプンを集積できるが、アミロプラストでは複粒デンプンが、葉緑体では大型の単粒デンプンが形成される。いずれのプラスチドにおいてもデンプン粒の形成機構については不明な部分が多いが、本研究で示された結果をさらに発展させることによって、複粒デンプン形成機構及びデンプン粒の形状や大きさの変更に繋がる情報が得られると期待される。
実用上の評価は今後に待たねばならないが、オルガネラの大きさや形を変えることがデンプン粒子やタンパク質組成の改変につながることを示した結果は、本研究の応用面として予測していた点と一致するものであり、評価できる。
全体として、成果の公表は遅れているが、研究終了時までには十分な成果発表が行われることを期待したい。