生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2007年度 中間評価結果

核移植と染色体操作を組み合わせた新規手法による魚類体細胞クローンおよび遺伝子ターゲティング技術の開発

(名古屋大学生物機能開発研究センター 若松 佑子)

評価結果概要

本プロジェクトのこれまでの成果は、プロジェクト開始前に代表者のグループが発見した新たな核移植技術(diploid受精卵への核移植)の可能性を、成功率の改善によって証明しようとしたものと総括できよう。しかし、この改善は温度処理や移植タイミングといった、経験的な側面が強く、移植技術の科学的正当性に遡って考察を行うことはむずかしい。言い換えれば、成功率向上の努力の前にやるべきことが適切になされていないとの批判を免れがたい。一例として、「得られた個体が本当にドナーだけのgenome DNAをもとに発生したクローン胚である」という科学的確証には至っていない。また別の問題点としては、この技術がメダカ以外の魚種で応用できるか、という産業応用に直結する問題が未解決な点があげられる。
遺伝子ターゲッティング技術の開発は、科学と応用の両面できわめて重要な技術で、マウス以外では成功例がなく、野心的試みである。それだけに、プロジェクト開始当初からできるだけ多くの研究資源を投入して、同時並列的に研究課題に取り組む必要があった。しかし、現在は相同組換え細胞のクローニングが始まった段階である。たとえこの段階をクリアしても、長期の培養を経験した細胞の核を用いた核移植で本当に個体が作れるかには大きな不安が残る。これ以外の研究、例えば初期化因子の探索は、preliminary な観察事実が列挙され始めた状態で、確実な成果が上がる見込みは少ない。
このような問題は急に発生したものでなく、昨年度(18年度)の単年度評価では、相当程度具体的なコメントを付した厳しい評価が行われている。しかし、今回のヒアリングでその対応、また研究の修正も十分なされていたとは評価できない。本課題には多くの研究費が投入されたにもかかわらず、未だに得られた個体が実際にクローンであることが科学的に証明されておらず、研究費に見合った成果が得られつつあるとは到底言い難い。
中間評価段階での研究代表者の認識、あるいは審査委員とのディスカッションから判断した限りでは、今後の成果の進展は期待薄といわざるを得ない。研究代表者と審査委員の認識の違いの一例として、研究項目(1)体細胞核移植法の確立、(2)クローン技術の開発、(3)体細胞核のリプログラミングの機構解明、(4)遺伝子ジーンターゲッティング、(5)有用魚種(キンギョ)への応用の内、(1)「体細胞核移植法の確立」と(2)「クローン技術の開発」について、研究代表者はほぼ計画通り達成したものと認識しているが、審査委員はこれらの2つの研究項目についてもプロジェクト提案段階の「preliminaryな観察事実」から大枠では進捗が見られていないと認識していることが挙げられる。残る(3)~(5)の研究項目は、成果が出るまでにまだまだ多くの試行錯誤と長い年月を要する状況である。
以上を総合すると、残り1年余の期間で当初の計画が達成されるとは考えられないことから、今後の研究の進め方は、内容の大幅な縮小と見直しが必要である。