生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2007年度 中間評価結果

極限環境生物が継承する生存戦略のオミクス解析に基づく耐酸性・高温植物の作出

(立教大学理学部 黒岩 常祥)

評価結果概要

(1)全体評価

中間評価時での達成目標として、課題担当者たちは、1)シゾンと高等植物との比較ゲノム解析、2)シゾンのEST解析、3)シゾンの細胞周期の各時期に発現する遺伝子を対象とした疑似環境変動実験でのマイクロアレイ解析などにより、環境変動耐性遺伝子の候補の選定を行なうことを第一段階とし、次の段階として、得られた候補遺伝子をモデル植物であるシロイヌナズナ、イネなどに導入することによって、環境ストレス抵抗性植物の作出を挙げている。
最初の段階については、シゾンゲノムの完全解読を行ない、比較ゲノム解析からシゾンと藻類・高等植物との間に共通する遺伝子の絞り込みと酸性、高温、塩などのストレスと関連する可能性のある遺伝子の候補を選定した。また、EST解析から、ストレス環境下で特徴的に発現する遺伝子の絞り込みも行なわれた。
しかしながら、研究課題「極限環境生物が継承する生存戦略のオミクス解析に基づく耐酸・耐高温植物の作出」の原点を一度振り返ってみてはどうか。ここでは、シゾンという極限環境に生存する生物の特性と、その全ゲノム解析が完了したことを十分に生かすことが重要と思われる。シゾンの生理学的・生態学的な特性を発現している遺伝子を探索するのにEST解析中心となっているが、高発現している遺伝子が、その機能発現全てを司っているとは限らないことの方が多い。「分子生物学的知見と生理学的知見の総合化」が研究の重要な方向性と思われる。また、中課題Aと中課題Bの進捗のバランスへの配慮が必要である。本研究では、シゾンという特殊環境生存生物の遺伝子を他の宿主植物で発現させ、シゾンの環境変動適応能を付与した植物の作出が目的となっている。それが可能となれば、その技術はいろいろな植物に応用することができ、新分野の創出として期待できる。そのためには、中課題Bの成否が、本プロジェクトの成否にかかっていると言っても過言ではない。イネが宿主植物として最適であるか否かについては議論する余地があるが、残りが2年間であることを考えると、まず、イネにシゾンと同様な機能を付与するための最短手法を考えるのが良いのではないか。

(2)中課題別評価

中課題A「シゾンの極限環境適応遺伝子の探索とその応用に関する基礎研究」
(立教大学極限生命情報研究センター 黒岩 常祥)

ほぼ計画どおり研究が進められている。しかし、環境変動適応遺伝子の選抜にはマイクロアレイ解析・EST解析が中心となっているが、オミクス解析を重点とした手法を高めることによって候補遺伝子の選抜と絞り込みが的確になると思われる。特に、これまでの研究による極限環境適応遺伝子としての候補遺伝子の絞り込みが少し短絡しているように感じられる。これまでの成果で、例えば耐酸性に関わるシゾンのA遺伝子の導入によるシロイヌナズナへの耐性付与は、他の生物由来の遺伝子を導入した場合とどの程度違いがあるのか明確にされていない。その他のB遺伝子導入の場合も同様である。これらのシゾン由来の遺伝子(あるいは、その産物であるタンパク質)の特性を明確にする必要がある。あるいは、他の生物種には見られない、シゾンに固有の遺伝子がシゾンという生物の生理・生態的特性にどの程度寄与し、それらの他植物で発現すると、どのような機能を付与することになるか、などの検討が必要と思われる。

中課題B「環境変動に耐性な有用植物の作出」
(東京大学大学院理学系研究科 平野 博之)

イネの形質転換は時間がかかることを考えると、これまでの約2年半という時間では、順当な進捗状況と言えるだろう。しかし、本中課題では、シゾンという特殊環境生存生物の遺伝子をイネで発現させ、シゾンの環境変動適応能を付与したイネの作出が目的となっている。
A遺伝子を導入したイネの耐性能評価は、伸長のデータとして示されているが、まず、A遺伝子を導入したイネ形質転換ライン数はどのくらいあったのか?また、実生苗の伸長データは、対照と組換え体の差が数mm程度しかないが、この程度の差異では、導入遺伝子によるものか否か、疑問である。実験データの統計処理によって有意差の有無を示す必要がある。