生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2007年度 中間評価結果

魚類における精子ベクタ-法の確立

(大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立遺伝学研究所 酒井 則良)

評価結果概要

(1)全体評価

将来にわたり魚類を継続的に安定供給していくために、効率的な品種改良等を可能にする生産技術として、効率的かつ精度の高い遺伝子組換え技術が不可欠である。しかしながら、魚類ではマウス胚性幹細胞(ES細胞)において確立されている遺伝子改変技術は、まだできていない。生殖細胞の分化様式の違いから魚類のES細胞の樹立は困難であるため、魚類独自の遺伝子改変技術を開発することが必要である。本研究では、魚類における精子ベクター(ウイルスベクタ-を用いて遺伝子導入した培養精子)による遺伝子改変技術の確立を目的として、ゼブラフィッシュとメダカを材料に、二つの研究グループが連携し合って研究を着実に進めていることが伺われる。
ゼブラフィッシュではRNA干渉による遺伝子発現抑制効果が確認できたこと、培養系による精子形成調節因子の解析など、科学的価値の高い成果がみられ、とくに精原幹細胞培養株の可能性が示されたことは注目に値する。しかしながら、RNAiの効果が見えにくく、個体、細胞レベルで抑制効果を把握するのに時間を要したこと、レトロウイルスベクタ-で目的のDNAを組み込むと極端に力価が低下したことにより標的遺伝子機能阻害個体も作出できるものと期待している。
一方、メダカでは高い受精率を示す顕微授精法の技術開発に成功したことや減数分裂制御タンパク質に対する包括的な抗体価の作製などに加え、精原細胞から精子までの培養系を確立できたことなど、当初の計画を上回る成果が達成されている。

(2)中課題別評価

中課題A「ゼブラフィッシュ培養精子による逆遺伝学技術の確立および精子形成調節因子の解明」
(大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構国立遺伝学研究所 酒井 則良)

RNAi法による標的遺伝子機能阻害個体の作出については、今のところレトロウイルスベクターの問題などで技術の確立には至っていないので早急な確立を望む。2精原幹細胞の培養を試みて3ヶ月ほどは維持できている。長期にわたり精原幹細胞株が維持できると相同遺伝子組み換えの際にも有用であり波及効果は大きい。3精子形成調節因子の解析として雄性生殖細胞へ異なる作用を持つセルトリ細胞株のマイクロアレイ解析から多くの特異遺伝子が単離されてきている。中課題Bのタンパクレベルの解析と連携し各遺伝子の機能解析するのが今後の課題である。

中課題B「メダカ培養精子による逆遺伝学技術の確立および精子形成調節因子の解明」
(北海道大学大学院先端生命科学研究院 山下 正兼)

メダカの顕微受精法については12.6%という高い孵化率が得られ確立された。2遺伝子トラップ型ベクター導入法の開発は相同遺伝子組み換え精子ベクターによる遺伝子改変魚作出に必要な技法であり、今後、精原細胞への遺伝子導入効率の向上が重要である。3精原細胞から精子に至る全過程の試験管内の再現に成功した。また精子形成調節因子の解析として、減数分裂制御タンパク質の再現に成功したことに加え、精子形成調節因子の解析として、減数分裂制御タンパク質の抗体を作製した。この研究は、魚類の減数分裂制御機構の包括的解明につながるものであり基盤研究としても期待が大きい。