生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2007年度 中間評価結果

麹菌における染色体工学の確立と高機能性麹菌の育種

((財)野田産業科学研究所 小山 泰二)

評価結果概要

(1)全体評価

麹菌における染色体の大規模欠失技術の開発、300近くに及ぶ転写制御因子破壊株のライブラリーの作製、二次代謝関連遺伝子群の予測と破壊など、中間評価までの目標をほとんど達成し、転写制御因子の機能同定のための遺伝子発現プロファイル解析も計画通り進行している。特に、本研究の目標に必須の技術である染色体の大規模欠失技術を中間評価時点までに確立したことは高く評価できる。また、比較ゲノミクスからの解析も多面的に行われ、麹菌特有の遺伝子の抽出にも成功し転写制御因子の遺伝子を網羅的に解析することを可能とした。今後はこれら転写制御遺伝子の機能解明が待たれるところである。
基礎科学的な面での解析に加えて生物系特定産業への応用面でも研究が進んでおり、高機能性麹菌の育種を目的としてゲノムの最小化実験も開始されている。ゲノムの不要領域の特定、二次代謝産物関連遺伝子の同定も進んでおり、これらの情報は安全な麹菌育種に役立つであろう。ただ、どこまでゲノムを最小化すれば高機能化なのかなど、高機能性麹菌とは如何なる麹菌なのかを具体的にする必要がある。

(2)中課題別評価

中課題A「染色体加工技術を用いた転写因子の機能解析と高機能性麹菌の育種」
((財)野田産業科学研究所 小山 泰二)

麹菌における染色体大規模欠失技術の開発、目標数にほぼ到達する転写制御因子破壊株の取得、マイコトキシン生合成クラスターの破壊、破壊株の遺伝子発現プロファイル解析への着手など、順調に計画を遂行し、さらに、7番染色体の20%欠失、シクロピアゾン酸生合成遺伝子クラスターの同定、分生子形成関連新規転写制御因子の発見など、当初計画を超える成果を挙げた。研究計画を超えたこれらの成果は、科学的に価値の高い研究成果であり、原著論文としての情報発信が望まれる。また、大規模欠失技術の開発は、染色体工学による糸状菌の分子育種という新たな応用分野を切り開く成果である。遺伝子組み換えは我が国では拒否反応が強く、本技術の実用化は国内では当分難しいであろうが、世界の糸状菌応用研究をリードする優れた成果であり、国際的競争力の維持、国際市場への展開に貢献するものと考えられる。

中課題B「比較ゲノミクスによる標的遺伝子領域の決定と解析」
((独)産業技術総合研究所 町田 雅之)

麹菌のゲノムは他の糸状菌にも良く保存されている遺伝子が存在する領域(synteny領域;SB)と麹菌に特異的な遺伝子が存在する領域(non-synteny領域:NSB)の2つの領域がモザイク状に配置されていることを、ゲノム解析から明らかにした。また、NSBには二次代謝関連遺伝子や加水分解酵素などの代謝系に属する遺伝子が集中していることも明らかにした。比較ゲノム解析による麹菌の全ゲノムからの転写制御因子遺伝子の予測は、本研究全体に関わる基礎データを与えるものである。その中から二次代謝系遺伝子の転写制御に関わると予測した転写制御因子を中心として、目標数にほぼ到達する破壊を取得、計画どおりに破壊株の遺伝子発現プロファイルを順次解析した。また、NSBに存在する遺伝子群の発現誘導条件の決定、NSB上の遺伝子群の発現に関わる転写制御因子の同定は独創的な研究成果であり、科学的価値が高いだけでなく、産業用糸状菌としての麹菌の特性を決定すると考えられるNSB上の遺伝子群の解析を可能にし、NSBに関する知見の集積に貢献するという点で、応用上も極めて価値が高い。