生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2007年度 中間評価結果

油脂の口腔内化学受容および脳内情報処理機構解明による高嗜好低エネルギー油脂開発の基盤構築

(京都大学大学院農学研究科 伏木 亨)

評価結果概要

(1)全体評価

本研究は、油脂の口腔内化学受容、内臓からのエネルギー情報、脳内での統合機序と報酬系を中心とした執着に至るメカニズムを解明し、低カロリーで高度な満足感を兼ね備えた新規な油脂関連食品素材を開発するための科学的基盤の構築を目的とした。本研究は、高度な発想と実験方法を要求される挑戦的な研究であり、完成に至れば社会に大きなインパクトを与える可能性が高い。これまでに得られている研究成果は、充分に評価できる。
まず、油脂摂取の口腔内情報およびエネルギー情報に関する研究では、スクリーニング系の確立を行い、いくつかの候補物質を見出している。受容体の同定およびリガンドの認識特性については、オリジナリティの高い研究成果として学術的に高く評価される。しかし、脂質の味覚に、味蕾細胞のCD36やGPR120がどの程度の役割を持つかどうかは、未だ明らかにされていない。また、脂肪酸のβ酸化によるエネルギー生産がエネルギー情報の一部を形成すること、糖質のエネルギーが油脂のエネルギーに代替えできる可能性があることなど画期的な発見がなされている。さらに、これらの情報がどのように脳内で統合されるかについて、脳内における神経伝達物質の動態計測を試みている。脳報酬系の研究では、脂肪摂取に伴ういくつかの脳内物質の応答と、ラットの報酬系活動とが一致することを見出しており、今後の発展が期待できる。
これらの研究成果を基礎として、リックテストにより低濃度の脂肪酸に100%のコーン油と同等の味覚の嗜好性があることを見出し、高嗜好性低カロリー油脂の事例を提案している。今後の問題点として、早急にヒトでの味覚効果を調べる必要がある。
情報発信に関しては、学術雑誌への発表は順調になされており問題はない。
以上のように、本研究は概ね順調に推移しており、研究終了時には高嗜好性低カロリー油脂が提案できると期待される。さらに最終達成目標に向けての研究の充実が求められる。