生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2007年度 中間評価結果

幼若ホルモンネットワーク遺伝子の解明と制御

((独)農業生物資源研究所 篠田 徹郎)

評価結果概要

昆虫の多くの生理現象の制御にかかわる重要なホルモンである幼若ホルモン(JH)の作用機構について、遺伝学的なバックグラウンドが確立され、ゲノム情報をフルに利用できるカイコという1つの昆虫種で、様々な角度から共同体制によって探究する研究戦略は合理的である。
研究の要は細胞内JH受容体の同定にある。すべての研究計画は、受容体同定を想定して展開させ、同定した暁には研究を一挙に展開できるだけの基盤構築を準備しておく必要がある。現在の研究体制と、これまでこの研究チームが示した計画遂行能力を考えれば、残された期間で、JH受容体タンパク質の精製とアミノ酸部分配列に基づく遺伝子同定が完了することは期待できる。一方でこの研究は昆虫発育制御剤の開発に大きく寄与する。JH作用発現・調節機構の鍵となるターゲット分子の同定が最も重要であり、それに基づいた簡便なスクリーニング系の確立が望まれる。
中間評価の段階であるが、当初の目標とした研究が着実に遂行されており、成果が挙がっていると評価できるが、これは当初すでに十分な実績と背景を持っていたことからすれば当然と受け止めている。このプロジェクト終了時目標は、このままの計画で進めて達成し、今後残りの期間で、さらに上を狙ってほしい。

(2)中課題別評価

中課題A「カイコゲノム情報に基づくJHネットワーク遺伝子の解明」
((独)農業生物資源研究所 篠田 徹郎)

JHネットワーク遺伝子の網羅的な探索同定と機能の解析が課題の内容であるが、このうちJH合成経路にかかわる酵素は予定通り同定が進んでいる。TGカイコや培養系を用いてそれらの機能についての解析も進んでおり、科学的レベルの高い成果が期待できる。一方、後期JH生合成酵素に関する研究は、発育制御剤のターゲットとして有望であり先端的であり優れている。また、これらの成果はJHアゴニスト、アンタゴニストのスクリーニングが確立され利用されるレベルに来ており、科学的な意義とともに実用的な産業への寄与も期待される。JH分解にかかわる分子やJH結合タンパク質についても一定の理解が得られてはいるが、それらの機能の解析についてはさらなる検討が必要である。JH 作用機構の研究は、JH研究の核心ともいえるが、現段階ではJHの受容体の同定やシグナル伝達についての情報が予定通りに解明されてきているとは言えない。しかし、新規JH早期誘導性因子の発見は優れた成果であり、これによってJH受容体の実像に一気に迫ることができる可能性が出てきた。

中課題B「組織培養系によるJHネットワーク遺伝子解析」
(弘前大学農学生命科学部 比留間 潔実)

アラタ体-側心体複合体及び脳-アラタ体-側心体複合体のin vitro培養系の確立は、今後のJH制御機構解明及び新規昆虫発育制御剤開発に向けて大きく貢献すると思われる。側心体のアラタ体JH合成の直接支配及びshort neuropeptide F(sNPF)の同定は新規概念の提案である。また、Gタンパク質共役受容体の網羅的な解析に基づき、アラトトロピン、アラトスタチン、sNPF の受容体を同定し、JH合成調節に関する研究のさらなる展開の基盤を与えた。また、これまで不可能とされていたカイコ幼虫の皮膚培養を成功させ、JHの主要な作用部位である皮膚の長期安定培養系を確立しており、JH受容体分子の同定や昆虫発育制御剤開発のためのスクリーニング系として極めて有望である。カイコガを材料としたコミットメントの制御の解析を始め発生生理学研究に新たな手法を加えたことは評価できる。以上、側心体の関与やsNPFの発見等、研究は終了時達成目標を一部上回っており、十分に優れた成果が期待できる研究である。