生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 中間評価結果

オオムギ重要形質に関与する遺伝子の同定と育種への応用

(岡山大学資源生物科学研究所 佐藤 和広)

評価結果概要

(1)全体評価

今まで研究代表者のグループにより推進されてきたオオムギゲノム研究を更に発展させる課題である。オオムギ実用品種「はるな二条」のゲノミックBACライブラリー、発現遺伝子、遺伝地図情報、遺伝資源のジェノタイピングを基盤として、オオムギ重要形質を支配する遺伝子を単離・解析し育種へ応用することをめざしている。
本課題は3つの中課題により構成されている。すなわち、(A)オオムギゲノム解析の基盤整備、(B)ストレス関連遺伝子の単離と機能解析、(C)醸造品質関連遺伝子の単離と解析である。B、Cはオオムギの育種目標としてはいずれも重要な形質であり、目標設定としては妥当である。オオムギゲノムの全塩基配列決定プロジェクトが国際的に開始されており、日本がそれに対応するためにもタイムリーな課題といえる。また、イネゲノム情報をさらに活用するためにもオオムギゲノム解析の基盤整備は望まれる。
ゲノム配列情報を最大限いかすために、遺伝子予測、マーカー開発、マッピング集団の作成、遺伝資源のジェノタイピングが必要となるが、これらのテーマに対応する研究を着実に進展させている。また、ストレス関連遺伝子として、3種類のミネラルストレス関連遺伝子、醸造品質関連遺伝子の探索と解析をそれぞれのグループが実績を積み重ねており、実質的な成果が期待できる。
一方で、本研究の中で広範な研究が行われており、またその方向性が必ずしも明確でない印象がある。限られた研究資源と期間内に、何をどこまで行うことが将来のオオムギ研究にとって最善かを、この機会に再検討してみることを勧める。

(2)中課題別評価

中課題A「大量マップベース単離システムと育種システムの開発」
(岡山大学資源生物科学研究所 佐藤 和広)

従来から開発してきたオオムギのゲノム育種のための基盤整備をさらに進展させて、(1)オオムギ3H染色体に座乗する遺伝子領域の大量塩基配列解析、(2)多数の系統を組み合わせた遺伝子地図の充実(3Hおよび7本染色体全体)、(3)重要形質を支配する遺伝子を解析するための系統、分離集団の作成、(4)遺伝資源の多数分子マーカーによるジェノタイピング、を行っている。オオムギゲノムの遺伝子構造解析とそれから得られるマーカー開発をリンクさせている。
オオムギ染色体3Hに座乗する発現遺伝子444マーカーをもちいて選抜した400BACクローンの塩基配列を決定しているが、解析の進んだイネ1番、コムギ3B染色体とシンテニーがある3H染色体のゲノム構造をさらに徹底して研究すべきであると考える。研究は順調に進展しており、当初設定した目標は達成できるものと思われる。
一方で、今後研究期間内にどのような目的で何をどこまで進めるかの判断が難しい。現時点ではやや散漫な印象がある。

中課題B「ストレス耐性遺伝子の単離と解析」
(岡山大学生物資源科学研究所 馬 建鋒)

オオムギが示すミネラルストレスに対する特質、すなわち、アルミニウム耐性が弱い、鉄欠乏に強い、ことを活かして、(1)オオムギ鉄輸送遺伝子の単離と機能解析、(2)オオムギアルミニウム耐性遺伝子の詳細解析、(3)オオムギケイ素吸収遺伝子の単離と機能解析をテーマにしている。それぞれのミネラルストレスに対応する遺伝子をすでにクローニングしており、機能を分子細胞生物学的手法を駆使して解析している。それぞれの機能解析は遺伝子ごとに進展状況は異なるが、着実に成果を上げている。オオムギの形質転換系が確立されていないので、ヘテロな他の植物の系を用いて遺伝子の機能を解析している。(A)グループで試みているオオムギの形質転換系が確立されれば、機能証明がより強いものになる。
今後、中間母本の作出等を通して、品種育成への道筋が示されると、さらにすばらしい。

中課題C「醸造品質関連遺伝子の単離と解析」
(サッポロビール(株)バイオリソース開発研究所 木原 誠)

オオムギの最大利用産物であるビールの品質を制御するための研究を行っている。ビールの醸造過程は複雑であり、材料のオオムギの品質評価が難しかった。当グループは、(1)麦芽・醸造品質評価の研究、(2)醸造過程ではたらく遺伝子機能の網羅的研究、(3)醸造過程における有用タンパク質の網羅的研究、の3小課題を担当している。
結果として、麦芽分析上の重要形質を特定した。また、醸造過程でその蓄積量が変化するタンパク質を二次元電気泳動法により解析し、特徴的なタンパク質を同定した。また、オオムギマッピング集団を用いて醸造形質と関連する遺伝子との座乗染色体領域を対応づけている。
重要ではあるが取り扱いが難しい形質について、本研究の成果を活用して切り込んでいることは評価できる。また、研究の難しさも理解できる。しかし、本研究期間内に、その後の展開に具体的に役立つ成果を得られるよう、戦略の再検討、絞り込みが必要ではないか。