生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 中間評価結果

家畜原虫病に対するTh1免疫誘導型糖鎖被覆リポソームワクチンの開発研究

(帯広畜産大学原虫病研究センター 横山 直明)

評価結果概要

(1)全体評価

本研究は獣医領域で問題となっている家畜原虫性疾病の組換えワクチンの開発を目指したものである。彼等はすでにオリゴマンノース被覆リポソ−ム(OML)に抗原を封入してマウスに接種すると封入抗原特異的なTh1免疫応答が誘導されることを見出していた。そこで未だ有効なワクチンのない家畜の原虫病に応用しようと考えた。中間評価時までにいくつかの原虫のマウス感染モデル系を用いてOMLワクチン効果を検証し, 当初の目標をほぼ達成したが、バベシアのようにHLAI(Human Leukocytes Antigen I)発現のない赤血球細胞内に寄生をするものを、Th1型の免疫誘導によるワクチンで予防を目指す当初研究計画に無理があったことは否めない。しかし、ネオスポーラ症ではワクチン効果が認めたことは、OMLワクチンの家畜への応用に希望をもたせた。また牛タイレリア症のワクチン開発に向けて放牧牛での疫学と汚染原虫の調査を実施したことは、今後のワクチンの野外応用を考える上で重要なデータとなる。獣医学領域で問題となっている原虫のマウス実験感染系を用いて原虫によるTh1免疫回避機構の一端を明らかにしたことは重要であり、今後家畜でどうなのか解析を希望する。「生物系特定産業技術研究支援」という立場で見た時、あくまで「家畜に使えるワクチンを開発する」という最終目標にむかってマウスを使った実験よりも牛を用いた実験を優先させて頂きたい。
本研究課題が目指す遺伝子組換え製剤の家畜への投与が、社会的背景から「遺伝子組み換え」という言葉によって臨床試験すら実施が困難である現実に鑑みると、生物系特定産業に寄与する可能性が極めて限られてしまう実情には失望せざるをえない。しかし可能な限り将来の大規模臨床試験に向けた基礎研究の基盤固めは、本研究課題にとって最重要課題であり、そのために計画を変更することも必要である。

(2)中課題別評価

中課題A「家畜原虫病に対する糖鎖被覆リポソームワクチンの構築とその総合評価」
(帯広畜産大学原虫病研究センター 横山 直明)

牛でのOMLワクチン効果をみる際、マウスと比較にならないほどの困難さがともなうため、可能な限り頭数を増やす事が重要である。OMLワクチンを牛に応用するには、攻撃原虫をどうするのか、効果判定(感染阻止か発病阻止か)をどうするか、など課題が山積しており残りの2年間の奮起に期待する。本来であれば、感染攻撃試験を感染血液の移入ではなく、感染ダニからの感染にするべきであるが、これについては現実問題としての可能性に疑問があるため、ソロゲートマーカーによる免疫状態の検査に重点をおく必要がある。タイレリアに関するウシ疫学調査は科学的にも評価できるが、ネオスポーラワクチンについても科学的に追求してほしい。タイレリア原虫に関して各地の牧場牛の感染状況の調査は本研究の必要性がグッと強く感じられた。また、研究代表者として家畜病に対する基礎科学の貢献をより一層社会に訴えてゆくべきであろう。

中課題B「抗原提示細胞へ効率よく標的抗原を送達できる糖鎖被覆リポソームの構築とTh1免疫応答へ導く分子メカニズムの解読」
(東海大学糖鎖科学研究所 小島 直也)

糖鎖被覆リポソームの構築では、ソリッドな研究データを出している。Th1へと導く分子メカニズムにおいて補体経路との関連を示した極めて興味深い結果を示しているが未だその分子メカニズムの全体像を明らかにしたとは言いがたく、今後より一層の研究進展が必要である。マウスを用いたリポソームの効果試験において、実験室で作成した製剤を使用しているが、今後の臨床試験に向けたGMPによる製剤で同様の結果が得られるかという点で疑問がある。すなわち、LPSのなど不純物によるアジュバント効果について考察されていない。GMP生産は容易ではないが本研究結果をより広く産業界に導入するには必須の事項である。また「効率よく標的抗原を送達できる-」という点に関して、新たな糖鎖マテリアル媒体の構築や次世代型糖鎖被覆リポソームの開発も進められているため成果に期待したい。

中課題C「病原性原虫によるTh1免疫回避機構の解明と糖鎖被覆リポソームワクチン評価技術の確立」
(産業技術総合研究所 池原 譲)

ワクチンの評価技術に関して、牛におけるELISpotアッセイを構築したことは評価できるが、実際の疾病との関連性を示すには至っておらず、今後の検討が必要である。Th1免疫回避機構については、バベシアが宿主赤血球膜を纏う事やシアル酸の関与など、興味深い観察をしており、今後の研究成果が大いに期待できる。
家畜原虫性疾病の解析としてマウス実験感染系を用い、原虫によるTh1免疫回避機構について検討した結果、バベシア原虫ではTh1免疫を抑制的に作用するTreg細胞誘導することにより原虫が増殖しているのではないか、また原虫表面に赤血球膜由来のシアル酸をかぶることによりTh1免疫応答を抑制し原虫増殖をはかっている可能性を明らかにした。原虫シアル酸による免疫回避がはたして感染牛でもみられるのか、もし見られるのならばその解消法はどうするのか残りの2年間でぜひ結論を出して欲しい。