生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2008年度 中間評価結果

クロマチン構造と細胞周期制御による高等植物の高効率・高精度遺伝子操作技術の開発

(農業生物資源研究所 土岐 精一)

評価結果概要

(1)全体評価

ジーンターゲッティング(GT)をクロマチン構造を変化させることにより制御しようとする大変ユニークな研究であり、成功すれば実用化の意義も高い。これまでに、酵母 Rad54強制発現による相同組換えへの影響の解析、ExoIの過剰発現がGT効率の向上に効果的であることの発見、標的組換えに関与するDNAポリメラーゼの同定、CDK1コンディショナルミュータントDT40細胞株の樹立、イネにおける人工制限酵素であるCN遺伝子の作成系や、CNタンパク質生合成のための実験系の構築、DNA損傷処理を行うかCDKB2をノックダウンすることでG2期を遅延させることが相同組換えの効率化に有効であるという事実の発見など、研究計画の基盤をなす根本現象は確認されたように思われる。今後は、3中課題間の連携を強めて、「植物でのGT効率を飛躍的に向上させる」という当初の目的に役立つ成果が得られるよう努力する必要がある。

(2)中課題別評価

中課題A「クロマチン構造制御による高等植物の高効率・高精度遺伝子操作技術の開発」
(農業生物資源研究所 土岐 精一)

動物・酵母の例や海外の相同組換えを行っているグループの成果を基にGTの高発現系の構築を目指しているが、必ずしもこれに直結する成果は得られていない。これまでに、イネにおける人工制限酵素であるCN遺伝子の作成系や、CNタンパク質生合成のための実験系の構築、酵母Rad54のシロイナズナにおける強制過剰発現がALS遺伝子のGT効率の向上をもたらすことの発見などを達成してきた。しかし、当初予想したよりも動物・酵母で得られた成果が植物にうまく適用できず、その違いの方が目立つ感もある。ただ、シロイヌナズナとイネというモデル植物を用い、同時に研究を進めることにより、エンドマイトシスなど動物・酵母とは異なる植物の特性がつかめた段階に来ている。植物でのGT効率を飛躍的に向上させることを検証するのは、主にこのチームの仕事であるので、今後、中課題BやCのチームとも連携を強め、最終年度までには本課題をクリアする何らかの成果が得られることが望まれる。

中課題B「細胞周期制御による相同組換えの効率化」
(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 梅田 正明)

細胞周期を支配するサイクリン遺伝子の変異体や形質転換体を作成して、それらの相同組換え頻度の解析を行っている。これらの解析により、中課題Aと同様に、動物・酵母で得られた成果が植物で全く同じようには機能していないことが示された。CDKB2遺伝子をノックアウトした変異体の解析からは、S期からG2期への移行が阻害されることを明らかにした。細胞周期をG2期で停止させ、S期を延長させて相同組換えの効率化を図るという試みは、ユニークな発想で、一応は評価できる。しかし、飛躍的にGT頻度を上昇させる要因の解明には至っていない。CDKAが相同組換えに重要な役割を果たしている結果や、CDKFやCAKの発現を抑えることでGT頻度が減少することなどが得られているので、今後、CDKA、CDKF、CAKなどの解析を行うことが望まれる。

中課題C「ニワトリDT40細胞を利用した標的組換えを上昇させる方法のスクリーニングとその知見の植物へのフィードバック」
(京都大学大学院医学研究科 武田 俊一)

ニワトリDT40細胞を用いて、DNA分解酵素の一種の過剰発現がGT効率の向上に効果があることを示した点は大きな成果であり、本課題の目標達成のために役立つものと思われる。科学的な面では他にも興味ある成果を出しているが、これらの成果はニワトリDT40細胞が相同組換えを高率に行える特殊な系であることが寄与していると考えられる。ニワトリDT40細胞は特殊な系であり、ここで得られた成果が直ぐに植物の系で活かされる保証はないので、中課題A、Bのチームとの連携において今後検証する必要がある。本課題の最終目標とする高率のGTが得られるには至っていないが、その基礎を成す相同組換えの研究では多くの成果が得られているので、そのなかでGT頻度を高めるものをスクリーニングしていく作業が必要と思われる。相同組換えに関わる因子は多く、その機構は複雑で補償作用などもあると思われるので、シングルノックアウトだけでなく、ダブルやトリプルノックアウト変異体を作成し解析を行う必要もあると思われる。